Long
□21st
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自分の気持ちに気付かされたが、どうすればいいのかわからない。
そんなもやもやとした思いを抱きながら、渚は何もない日々を過ごしていた。
ただ、少し体が弱ったように思える。
悩み、あまり眠れていないせいだろう。
そんなとき、この話が持ちかけられた。
「引っ越し、ですか…?」
局長室で、渚は神妙な面持ちの桐壺とデスクを挟んで向かい合っていた。
「ウム、前の時もそうだったんだが、最近あの辺りを不審者が彷徨いていてネ…」
話が進むにつれ、彼の表情がさらに険しくなっていく。
「渚クンと同じマンションに住んでいる女性も、何人か被害に遭っているんだヨ…」
そのうちの一人は殺されかけたのだと、付け加えられた。
前に引っ越したのもこれに似た理由だった。
短期間に同じようなことが起こり、何か恨みでもあるのではないだろうかと感じてしまう。
「今の住所に移ってまだ1年も経ってないし、こちらでも色々考えてはみたんだけどネ…」
「…………」
一度目を伏せ再び開いた桐壺は、引き出しから資料を取り出しデスクに置いた。
「今の場所が気に入っているならしばらくバベルで生活してもらうというのも手だが、君の安全のために考えてくれないかな…?」
そこまで話して、彼の表情から険しさが消えた。
渚はしばらくデスクの上にある資料を見つめ、やがてその中の一部を手に取る。
前回同様、急な話だというのに随分といい部屋だった。
「…少し、考えさせていただいてもいいですか?」
渚が少し遠慮がちに聞くと、桐壺は優しく微笑む。
「急に決められるものでもないしネ。だが、君の安全のためを思っての話だということは忘れないでくれ。」
「……はい。では失礼します。」
少し重くなった空気の中で、デスクの上の資料をすべて持ち、渚は頭を下げる。
そして局長室を出て、瞬間移動で自宅に戻った。
「引っ越し、か…」
持ってきた資料をテーブルに広げ、渚は1つずつ見ていく。
数部見たところで、ある部屋が目に止まった。
今よりも狭いが、内装が似ていて居心地が良さそうな部屋。
まだ入居者も少ないらしく、階も選べると書かれている。
「ここなら、いいかもしれないね……」
兵部を好きなことには気付いたが、どうすることもできない。
会うことも、話すことも。
それならばいっそ、離れて忘れる努力をしてみてはどうだろうか。
しばらくはつらいだろうが、成長のためには必要なのかもしれない。
「…早く、決まったね。」
自嘲気味に笑い、渚は部屋を見渡す。
明日桐壺に話し、なるべく早く移動しよう。
渚はそう決めた。
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