Long

□18th
2ページ/4ページ


嫌だ――


聞きたくない――



「要らないなんて……」


虚ろな目で虚空を見つめる渚は、呪詛のようにその言葉を呟いていた。


「聞きたくない…嫌……」


そのまま彼女は徐々に普通の人々との距離を縮めていく。


「来るな化け物!」


彼らはさらに渚を罵倒する。



「……………」


ついに彼女が言葉を発しなくなった。


ただ無言で自分の親へと近付いていく。


「っ、来ないでよ汚らわしい!!」


ヒステリックに叫んだ渚の母親は、近くにあった小石を拾って彼女に投げつけた。


だがそれは、薫が弾き飛ばされたときと同じように薄い壁のようなものに跳ね返される。


弾き飛んだ小石が渚の母の頬を掠め、小さな傷を作った。


「…っ……」



その事に気付いているのかいないのかはわからないが、渚の動きは止まらない。


歩いているのではなく上空から徐々に降りてくる姿は、相手の恐怖心をさらに煽った。


「…………」



聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でまた何かを呟いた彼女は、ゆっくりと手を前に翳す。


そして


「っ、ぅあ……!」


念動力で自分の母親を地面に叩きつけた。



ただ無言でその姿を見つめているが、彼女にかかっている力は徐々に強くなっている。



そして視線を逸らし、傍にいた父親を一瞥して同じように力を加えた。



「…っ…ぅ……」


彼からは呻き声が漏れ、苦しそうな様子が見てとれる。


しかし渚は構わず力を加え続けた。


まわりにいる敵は、恐怖で言葉を失い立ち竦んでいる。


「っ渚さんやめて!」


「それ以上したらその人等死んでまう!」



紫穂と葵は叫んだが、その声は渚に届かない。


それどころか力のかけ方を強くしたようにも見える。


「…い、や……やめて……」



聞き取れた渚の言葉。


今攻撃しているのは彼女のはずなのに、その言葉が意味するのは拒絶だった。


ほとんど忘れられていたはずの幼い頃に受けた傷が、両親に会い同じことを繰り返されて蘇ったのだ。



「…渚ちゃん……」


彼女の心情を理解し、薫は悲しげに呟く。



「大丈夫だ、女王。今彼女を助ける。」


「!!」


不意に薫の耳に届いた兵部の声。


幻聴かとも思われたが、それは目の前の光景によって現実だったということを確信させた。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ