Long
□15th
2ページ/4ページ
“初めて見た”
多分何気なく発せられた言葉に渚の胸が痛んだ。
確かに姿は違ったが、この教室で一緒に授業を受けたではないか。
元の姿も、昼食時には見せていたはずだ。
この人たちが来る前に帰ってしまったけど。
「ねぇ、岡崎さんもそう思わない?」
「え?…あ、うん。」
しまった、考え込んでいて全く聞いていなかった。
だが、ちょうど始業のチャイムが鳴ったため、その話は終わった。
渚は自分の席につき、ふと隣を見る。
持ち主のいない机と椅子。
「あ、ねぇ、この席って…」
「ん?あぁ、空席だよ。」
前の人に聞くと、彼は端的に教えてくれた。
「空席…」
先週はここに兵部がいた。
女の子の姿ではあったが、確かに存在していたし、他の人も話してたのだ。
今のこの状態は、おそらく兵部が去り際に残した言葉のせいだろう。
渚が一人で黙々と勉強していた、という記憶に改竄する。
確かそんなことを言っていたように思う。
先程からずっと心の中がモヤモヤしているのは、それが原因だろうか。
知っているはずの兵部を、皆は知らないと言う―――
彼はそれでいいのだろうか。
でも他の学校に行っているなら、その方が好都合なのか。
他の学校に行っているのなら、朝から渚を送っていて時間は大丈夫なのだろうか。
考えれば考えるほど、わからなくなる。
結局そのモヤモヤを抱えたまま過ごしたせいで、1日がとても長く感じた。
.