Long
□10th
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「…何でもないよ。忘れてくれ。」
渚から離れて席についた兵部は、いつもの彼に戻っていた。
しかし今のような不可解な行動を、忘れろという方が無理な話だ。
「あー、冷めちゃったね。味には自信あるけど、まだ食べてくれるかい?」
「ッ!…あ、うん。」
「よかった。」
突然の変化に驚き、彼女は声が裏返ってしまう。
「あぁ、それから…僕のことは彼には言わないでほしい。約束してくれるかい?」
何か複雑な事情があるのか。
「わかった、言わないよ。」
兵部が言ってほしくないのなら、それをわざわざ言う必要はない。
そう思った渚は素直に返事をした。
「ありがとう。」
礼を言った彼の表情はとても優しい。
夕食を食べ終えた渚は、遅い時間に迷惑だと思いつつもシャワーを借り、今は兵部の部屋で話をしている。
「え、来客?」
「うん、バベルの…」
局内で約束した、チルドレンの3人と皆本、そして賢木を家に招くということを彼に伝えたのである。
「あぁ。じゃあ僕は、明日は行かないようにするよ。シャワーは勝手に使いに来てくれ。瞬間移動で入ってきても構わないよ。」
「…すみません。」
「畏まらないでくれよ。僕らは隣人で、同じエスパーの仲間なんだから。」
そうは言ってもやはり気が重い。
いつもならば一緒に夕飯を食べているためその流れで彼の部屋に行けるが、明日はそうではない。
非常に申し訳ない、しかしそれ以外に方法がないのが現状。
「…ありがとう。」
「どういたしまして。」
そういえば、と渚はあることに気付いた。
今日は桃太郎がいない。
兵部は見た目こそ同い年くらいなものの、時々妙に大人っぽい表情になる。
2人だと、余計にそれを感じる。
彼は一体何者なのだろうか。
「あ、そのかわり…」
「え?」
「僕が明日、渚と一緒に居られない代わりだよ。」
「…?」
彼女は何かあるのかと兵部を見る。
「代わりに、今度デートしよう。」
「…デート?」
「そう。デートだよ。」
デートとは、あのデートだろうか。
「まぁデートといっても一緒に出掛けるだけだ。そんなに不安がらなくていい。」
しかし、不馴れなものにはどうしても不安が付きまとうものである。
「…うん、じゃあよろしくお願いします……」
「こちらこそ。」
渚が承諾すると、彼は嬉しそうな表情を見せた。
何がそんなにいいのか。
疑問に思うことは多々あるが、それでも尚彼の隣にいる渚。
お互いが理解できない感情を持ったまま、時間は過ぎていった。
To be continued.