Long
□10th
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兵部の言葉に彼女は違和感を覚えた。
接触感応能力が使える彼ならば、渚が誰といたかくらいはわかるだろう。
しかし、今のは明らかに賢木を知っているような口ぶりだった。
何も知らない渚からすればそれは疑問以外の何でもない。
「修兄と、知り合い?」
「修兄!?」
彼女が聞き返せば、兵部は聞いている方が驚くほどに驚いた。
「……知り合い、といえばそうなるのかもしれないな。それより、どういうことだい?」
「え…」
「何故キミが賢木修二をそんな風に呼ぶんだ?そもそも何故一緒に帰ってくる?」
部屋の空気が凍りついたように冷たく感じる。
実際はそうでないのかもしれないが、今の彼女にはそう感じるのだ。
「…修兄とは昔からの知り合いで…今日は任務で疲れてるし身体に負担がかかるからって送ってくれて…それで……」
何か悪いことをしてしまったのだろうか。
兵部の表情は険しく、いつもの彼とは全然違う。
怒らせてしまったのなら謝りたい。
彼女なりに理解しようと、原因を聞いてみた。
「あの、京介さん。あたし何か……ッ!」
すると話の途中で兵部は瞬間移動し、彼女を後ろから抱き締めた。
椅子に座っているため身長差があるが、少し腰を屈めて首元に顔を埋めるような形で接する。
「きょ、京介さん…?」
「…………」
暫しの沈黙。
謎の多い兵部。
この行動も、やはり渚にしてみれば謎であり、理解することはできない。
しかし、嫌という感情は生まれなかったようだ。
だが今の彼は怖い、それが彼女にとっての事実。
「……すまない。」
やがて兵部は口を開いた。
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