Long

□6th
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すべて見たあと、賢木は少しぼーっとしていた。


虐待を受け続けた挙げ句、2歳で捨てられる。


そんなことがあり得るのかかと、信じられないようだった。



渚は一礼して彼から離れていく。



「局長…」


暫しの沈黙の後、彼は口を開いた。



「バベルに、入ります。」


そして抑揚のない声音でそう言った。


「おぉ!来てくれるのかネ!?」


「はい。でも、学校は…」


「それは心配要らないよ。高校に通いながら、休みの日だけでもここに来てくれればいいからネ。」



渚を見ると、それはもう嬉しそうだった。



「局長、賢木さんにバベルの案内をしてきてもいいですか?」


「ウム。バベルには子供がほとんどいないから、渚クンも嬉しいんだネ。」


微笑み、彼女を見る桐壺。


「では、よろしく頼むヨ。賢木クンも、兄妹みたいなものだと思って仲良くしてやってくれ。」



「はい!行きましょう、賢木さん!」



賢木の手を引っ張りながら渚はずんずんと進んでいく。


手から伝わってくる感情は本当に嬉しそうだった。








「ここが資料室です。今までの事件のデータやエスパーのデータなど、色々あるんですよ。」


丁寧な教え方。


敬語だとか、そういうのではなく、説明の仕方も年齢に不似合いだった。


「次は…あれ?どうしました?」


賢木は渚についていかず立ち止まる。


彼女は心配そうな表情を浮かべて戻ってきた。


「賢木さん…?」



「あのさ、俺には敬語遣わなくていいよ。それから、さん付けもしなくていいから。」



「え?」


予想してなかった答えに、彼女はかなり驚いているようだった。


「あの、じゃあ…」


「ん?」



「ついでに、1つお願いしてもいいですか…?」


「いいぜ。」






「あの、“修兄”って呼んでもいい、ですか…?」




突発的な彼女の要求に、賢木もまた驚いた。



しかし桐壺の言葉を思い出し苦笑する。



兄妹みたいなものだと思って仲良くしてやってくれ。


そして、渚から伝えられた視覚イメージ。


今まで、ずっと敬語で話してきたんだろう。


唯一タメで話してたのが、言葉を覚えたばかりの頃。

それも、自分を捨てた家族だけ。



彼は渚に微笑んで、頭を撫でた。



「いいぜ。そのかわり、俺も“渚”って呼ぶぞ?」



すると、彼女は満面の笑みで賢木に返事した。


「うん!」



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