Long

□4th
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食材を買い、部屋に戻る。


「ただい………ッ!」


「やぁ、おかえり。」



渚が部屋に戻ると兵部がソファーに座っていた。


肩に黄色い何かを乗せている。


「言ったろ?また来るって。」


彼女の心を読んだのか、疑問に思っていたことに答えた兵部。


「あの、その黄色い…」


「僕、桃太郎!大好キナノハヒマワリノ種ダヨ!」



ちゃっかり好物を言ったその黄色い何かは、どうやら生きているらしい。


「桃太郎くん…?」


「ナンダ?」


可愛い、彼女はそう思った。



「この齧歯類!キャラが違うだろ!?」


「僕ハイツダッテ可愛サ満開サ。京介トハ違ッテナ。」



「五月蝿い!黙れこの下等動物が!」


喧嘩を始めた2人。


普段誰とも争わない渚には微笑ましい光景だった。


しかし、あまり暴れられても困る。



「あの、ものは壊さないでくださいね。」


軽く注意をすれば、彼らの喧嘩は止まった。



「齧歯類、帰ったらどうなるかわかってるな…?」


「フン!京介コソ、アトデ後悔スルゾ?」



互いに言い合いは続けるが、手を出すことはなくなったようだ。



「ところで渚、これから夕食かい?」


「そうですよ。よかったら一緒にどうですか?」



「ッ!…いいのかい?」


「はい。大勢で食べた方が楽しいですから。もちろん、桃太郎くんも。」



邪魔しては悪いだろうと聞いた兵部だったが、逆に彼女に誘われて驚いた。


「と言っても、今から作るんですが…」


「いいよ。何か手伝おうか?」

「いえ、お客さんですから。待っててください。」




渚はそう言うと、キッチンへ向かった。


楽しそうに料理をする渚を見て、兵部は何か不満そうな表情を見せた。


彼女がキッチンへ向かったことに不満を感じているのではない。


彼女が兵部に対し“兵部さん”と呼ぶことに不満を感じているのだ。


それに彼女は敬語を遣う。


ほとんど初対面だし、それは当たり前なのかもしれないが。


「…あんまり嬉しくないな……」


「ン?何カ言ッタカ?」



「……いや。」



しかし、何故そんなことが不満なのかということは彼にもわからないようだった。




「出来ましたよー!」




元気な声をあげ、渚はテーブルに料理を運ぶ。


3人は席につき、食べ始めた。


夕食を誰かと食べたのは何年ぶりだろう。



兵部と渚は互いにそんなことをふと思った。

「美味しいね。」


「ウン、美味イ!」


「あ、ありがとうございます。」



喜んでもらえて、彼女もまた喜んだ。



やはり誰かと食事をするのは楽しい。



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