Long

□36th
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昼頃に帰ってくる予定だといった兵部は、渚の思っていた時間よりも少し遅く帰ってきた。


「おかえりなさい。」


「ただいま。」


微笑んだ彼は、学生服を脱ぎカッターシャツ姿になる。


その動作に見とれていたが、脱いだそれをソファの背もたれにかけた兵部が真剣な表情で渚を見たため彼女も真面目な顔つきになった。


「少し、大事な話がしたいんだけど…」


「……?」


今日出掛けたことと何か関係があるのだろうか。


内容は全く推測できないが、とりあえず渚は話を聞く体勢になる。


しかし彼はしばらく口を開かなかった。


「京介?」


「………」


そんなに話しづらいことなのかと、不安になってくる。


そうしてドキドキしながら見つめていれば、兵部はようやく口を開いた。



「…さっき、キミのご両親のところへ行ってきたんだ。」


「…っ……」


予想だにしなかった内容で、渚は言葉をつまらせる。


だが逆にそんな彼女の反応は想定内だったのか、兵部はそれについて詳しく話していった。





昨日渚を探すためにあちこち移動したとき、彼女の生家も一応見に行った。


数ヵ月ぶりに見た渚の両親は、なかなか楽しそうだった。


窓から覗いたあの家には、おそらくまだ3人で暮らしていたときに撮られたのであろう写真が飾られていた。


前々から考えてはいたが、それを見て、兵部は彼女の両親と話すことを決めたのだった。




『あなたは…!』


『…………』


訪問した際に姿を表した母親は、兵部を見て一瞬取り乱したが、何か考えがあったのか彼を家にあげてくれた。


客間に通されてしばらく待つと、母親は父親も連れてきた。



『あの時の…』


『…その節はどうも。』


幸いにも兵部が折った骨は治ったようで、父親の腕は両方とも普通に動いている。


テーブルを挟んで向かい側に座ると、彼は神妙な面持ちで口を開いた。


『…渚の、ことですか?』


『えぇ。』


即答した兵部に、向かい側の両親は顔を見合わせて何か目で会話をしている。


それを見てどう切り出せば角が立たないかと考えていると、兵部が話し出す前に母親が口を開いた。


『あの子は元気ですか?』


『っ、はい…』


突然のことに驚きわずかに動揺しつつ返す。


すると、そうですか…と呟いたあと彼らはいきなり頭を下げた。



『あの子を、よろしくお願いします。』


『…っ……』


そんなことを言われると思っていなかった兵部は驚き目を見張る。


『私たちは突き放した身ですから、あの子のことをとやかく言う資格はありません。』


『でも、できればこれからの人生、幸せに生きてほしいんです。』


あなたなら、あの子を幸せにしてくれるでしょう?と母親に言われ、また兵部は驚いた。


『…何故、そうお思いに?』


『だって、あんなに全力であの子を助けようとしてくれたんですもの。』


例え親でも、渚わ傷つけた者には容赦なく攻撃する。


そんな方なら、絶対に渚を守ってくれる、幸せにしてくれる、愛してくれると信用できる。


目の前の両親は小さく笑いながらそう言った。



この人たちは本当にあの時の、渚の親なのだろうか。


彼女を前にしていないからか、あれから穏やかになったのかはわからないが、数ヵ月前とは全くの別人だ。


超能力者に対する嫌悪がまるで感じられない。


『…本当は、もう超能力に対する負の感情はなくなってるんです。』


ぽつりと言った母親は、今は普通の人々も脱退したと付け加えた。


偶然出会ってしまった日辺りに抜けようかと思っていたが、突然姿を現した渚に動揺してあのような暴言を吐いてしまったということも。



話をしに来たつもりが、逆に話される形となってしまった。


しかし兵部は、普通人を憎む気持ちは変わらないものの、目の前の2人の話を聞くのが苦にならなかった。


彼らの気持ちが嘘偽りないものであるということは、既に確認済みである。


『…幸せにすると、お約束します。』


『ありがとうございます。』


下げた頭をあげた彼らの表情には、安堵の色が窺えた。



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