Long

□35th
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「渚…」


「…っ……」


名前を呼べば、怯えたようにピクリと反応する。


「…この間は、すまなかった。」


顔を見られないよう抱く腕に込める力を強め、兵部は言葉を続けた。


「信用してないわけじゃないんだ。軽率にあんなことを言ってしまって、ほんとうに申し訳なかったと思ってる。」


「………」


「キミが賢木を兄として慕っていることも、僕を異性として好きでいてくれてることもよくわかってるのに、下らないことで嫉妬した。」


僕のことはさん付けで呼ぶのに、同じ年上である彼のことは何の抵抗もなく呼び捨てにしたことに、焦りを覚えた。


自分は彼ほど信用されていない、彼には及ばないと告げられたようで、耐えられなくなったのだと、兵部は悲痛な声で話していく。


すると、それまで黙っていた渚が身動ぎし、兵部の胸から顔を離した。


「…京介さんは、悪くないんです。」


上を向き兵部の顔を見れば、少し目が赤くなっているのがわかる。


「私も、信用してないわけじゃないんです。でも、いつか離れてしまうんじゃないかって思うと…」


「………」


「本当は、私も京介って呼んでみたいんですけど、怖くて、どうしてもできないんです…」


震えながら言った彼女を見て、賢木の言葉は正しかったのだとぼんやり思う。


兵部は渚の頭をそっと撫で、また自分の方へ抱き寄せた。


「僕はキミを手放すつもりはないし、キミから離れるつもりもない。」


「っ、はい…」


「キミが完全に心を開いてくれるまで僕は待つから、キミも、努力してほしい。」


「………」


心が落ち着いていく。


これは、彼を信用できているということなのだろうか。


「…大丈夫です。」


「渚?」


「信用、できると思います。」



だから、京介って呼ばせてください。



まっすぐに目を見つめて言った渚に、兵部は柔らかく笑んだ。


「あぁ。」



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