Long
□35th
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あれからまた思い当たる場所をいくつか探した。
中には2回目になるところもある。
だがやはり彼女は見つからない。
「どこにいる…」
今ちょうど、以前渚と住んでいたマンションを探し終えたところだ。
もう自分と彼女が一緒にいた場所はすべて探した。
1年近くしか共に過ごしていない兵部には、彼女との思い出は多そうで少ないのだ。
彼女にしか思い出のない場所にいるのなら、兵部には見つけることはできない。
もう一度賢木に聞こうか。
そう思ったが、やはり自力で見つけたかった。
「………」
そうだ、彼女が以前住んでいたマンションは?
渚がどんな人物なのか偵察しに行った場所だ、覚えている。
自分と接点はないが、一応見に行ってみよう。
そう思い兵部は瞬間移動した。
しかし、やはりと言ったところか彼女はいなかった。
彼女が住んでいた部屋には今はもう別の誰かが住んでいたが、そこにもいる気配はない。
時刻は夕方を示しているし、だいぶ暗くなってきた。
また明日探そうか。
「…っ……」
そう思い通路側のベランダから飛ぼうとして、兵部は目を見張った。
このマンションの隣にある公園、そこにひどく見覚えがあったからだ。
「そうだ、確かここで…」
初めて渚と会ったのだ。
ジャングルジムには人影が見える。
もしかしたら渚かもしれないと思った兵部は、飛ぶことを忘れてエレベーターまで走り、自分の足で下まで降りた。
「あ、お姉ちゃんだ!」
兵部が公園の入り口に辿り着いたとき、ジャングルジムの上にいる渚に小さな男の子が話しかけていた。
久しぶりだねと言った彼女の言葉から、このマンションに住んでいる知り合いなのだと推測される。
「…元気ないね。どうかした?」
上まで登り隣に座った彼は、首を傾げて訪ねている。
渚はその問いに対し、力なく笑って答えた。
「好きな人をね、怒らせちゃったんだ。」
「…っ……」
「それって、僕にとってのママみたいな感じ?」
「そう、かな…」
ふーん、と言いながら男の子は足をぶらつかせる。
「…仲直りしたいんだけど、おうちを飛び出してきちゃったから帰りづらいんだ。」
「大丈夫だよ。ママもよく僕のこと怒るけど、すぐ許してくれるから。」
「ほんと?」
「うん。あ、もうすぐご飯だから僕帰るね!」
ジャングルジムから降りた男の子は、バイバイと言いながら走っていく。
無邪気に走っていった彼は、特に気にすることもなく兵部の横もすり抜ける。
その後ろ姿を見ていた渚は、立ち尽くしている兵部を見つけ目を見張った。
「京介、さん…」
「………」
互いに距離を保ったまま、ただ見つめ合う時間が流れる。
その沈黙を先に破ったのは兵部で、彼女が動く前に瞬間移動で部屋に連れ込み抱き締めた。
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