Long
□34th
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渚の部屋にて、兵部は苛立ちを露にしながらうろうろしていた。
「遅い…」
彼女が出ていって3日。
さすがに自分も言いすぎたと謝りに来たが、彼女はまだ帰っていなかった。
先日兵部が倒してしまったカップがそのままになっているのが証拠だ。
クロスに広がったシミはもうとれないだろう。
証拠となっていたそれらを片付けた兵部は、落ち着きなくソファにどかりと腰を下ろす。
本当に賢木のもとへ行ってしまったのか、それとも仕事が忙しくてバベルに籠りきっているのか。
「…………」
もし夜になっても帰ってこなければ、賢木のところへ行こう。
そこに彼女がいれば素直に謝って許しを請うし、いなければ恥を偲んで彼女の居場所を聞くしかない。
決心した兵部は、日が暮れるまでただ呆然と渚が帰ってくるのを待った。
***
だが彼の願いは虚しくも、渚が帰ってくることはなかった。
「…っ……」
決心はしたが、自分にとって相当屈辱的なのか、隣の部屋へ行こうとしてもなかなか腰が上がらない。
しかしここで待っていても、渚は帰ってこないのだ。
再び意を決した兵部は、重い腰をあげて賢木のもとへと向かった。
インターホンを押し、彼が出てくるのを待つ。
「はいはい、どちらさ……」
「っこら、閉めるな!」
一度開けたドアを閉めようとした賢木に怒鳴り、兵部は隙間に自分の足を挟ませドアが閉まるのを防いだ。
「つーか何でお前がくるんだよ。」
「渚を知らないかい?」
「は?自宅にいないのかよ。」
「………」
ドアの隙間からそんな会話をしたが、途中で兵部が押し黙る。
それに何かを感じ取った賢木は、ゆっくりとドアを開けた。
「……まあ、入れよ。」
そうして兵部は、やや俯いたまま促されて中へと入っていく。
ドアが閉まるガチャンという音が、やけによく響いて聞こえた。
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