Long
□33rd
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「ん……」
目を覚ますと、二日酔いなのか頭痛が酷かった。
こめかみを押さえながら、賢木は昨夜の出来事を振り返る。
桐壺に酒を飲まされた、それは覚えている。
だがそれ以降徐々に記憶がなくなっているのだ。
「どうやって帰ってきたんだ…?」
思い出そうとし、頭痛に耐えながら考える。
すると、ぼんやりとだが思い出してきた。
「そうだ、確か渚に瞬間移動で運んでもらって…」
寄り掛かりながら、なんだかとんでもないことを口にしてしまった気がする。
しかしその内容自体は思い出せない賢木は、悶えながら叫び、また頭痛に苦しめられた。
***
予想通り、日々は忙しさであっという間に過ぎていった。
常に一緒にいたわけではないため、仕事が終わり帰ってきてからも寂しさを感じることはなかった。
疲れすぎていて何も考えられなかったというのもあったかもしれない。
だがやはり冷蔵庫を開ければ兵部と共にするはずだった夕食の材料が残っていて、何とも言えない気分にさせられることはあった。
そんな風に日々が過ぎて3日目の夜、仕事から帰ってきた渚に客が来た。
「渚ー、いるかー?」
インターホンを鳴らし、返事を待たずに入ってきた賢木を渚は特に気にした風もなく迎え入れる。
「どうかした?」
「いや、兵部に嫌がらせをと…そういや出てこねーな。」
いつもなら2人の時間を邪魔するなと憤慨する兵部が今日はおとなしい。
何かあったのか?と問いかけられた渚は、困ったように曖昧な表情をした。
「パンドラのお仕事に出てて今はいないの。」
「あー…、そいつは悪かった。」
「ううん、気にしないで。そうだ、よかったらご飯食べてく?今から作るんだけど…」
兵部と食べるはずの食材が余って困っているのだと言えば、彼は苦笑して誘いに応じた。
靴を脱ぎ室内に入った賢木は、調理を始めた渚のいるキッチンに近づき、壁にもたれ掛かる。
そして調理の手を止めない彼女にそのまま話しかけた。
「そういえばお前、卒業式で兵部といただろ。」
「あ、うん。見に来てくれるって言ってたから…」
渚はなおも手を止めない。
「仲がいいのは結構だが管理官や局長も来てたんだから少しは自重した方がいいぜ、あいつ。」
「私も隣の席に座られてたときにはさすがにびっくりした。」
「は……?」
さらりと発せられた言葉に、賢木は目を丸くした。
彼が見たのは式後に一緒にいる二人だ。
てっきりどこか遠くで見ていて、終わったからと降りてきていたのだと思っていたのに。
「隣に、いた…?」
「そう。生徒に紛れて座ってたの。」
その話を聞き、賢木はため息をついた。
「帰ってきたらあいつに言っとけよ。程々にしとかないと捕まって渚を未亡人にさせちまうってな。」
「未亡人って…」
苦笑いを返した渚だったが、少し心配もあった。
以前兵部はもう堂々と付き合えると言ったが、もしバベルに捕まったら今度こそもっと厳重な施設に幽閉されてしまうのではないか。
そうなったとして、幾年かすれば出られるのかもしれないが、彼の年齢を考えるとその可能性も充分にある。
彼は、自分よりもずっと年上なのだ。
「…渚?」
「あ、うん。すぐできるからソファで待ってて。」
「………」
渚は無理に笑顔でそう言うと、半ば強引に賢木をキッチンから追い出した。
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