Long
□32nd
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食事も終え、兵部が作ってくれたケーキも食べ終えた2人と1匹。
しばらくは談笑して過ごしたが、そろそろ兵部は自分の部屋に帰ると言った。
「ジャア僕ダケコッチニイテモイイ?」
「駄目だ。僕がお前と渚を一緒にさせるわけがないだろ?」
当然のごとくそう言われ、桃太郎は拗ねた顔をする。
「じゃあ渚、またね。」
「あ、はい…」
彼が明日またパンドラ側に戻らなければならないことは知っている。
準備もあるだろうし、きっと疲れているから早く自宅に帰った方がいいのだろう。
「あの、京介さん。」
「ん?」
「い……」
渚の言葉を待ち、兵部は彼女を黙って見つめる。
「…いえ、何でもないです。」
「いいのかい?」
「はい。おやすみなさい。」
結局用件を話さなかった渚を気遣い聞いてみたが、本人がいいならそれでいいだろうと兵部も深くは追求しなかった。
「おやすみ。」
額にキスを落として彼は瞬間移動してしまう。
「…………」
寂しいから、一緒に眠ってほしい。
その言葉は、やはり言えなかった。
「ふぅ…」
兵部が瞬間移動した先は、彼の部屋ではなかった。
渚がバベルの面子と話している間に、緊急連絡が入ったのだ。
事態が悪化した、と。
「間に合うか…?」
もしかしたら少し遅れても明日中には終えられるかもしれないからと渚には言わなかったが、真木の話しぶりからしてかなり悪いのだろう。
「真木、状況は?」
「はい。」
返事をした真木は、兵部に現状を表すモニターを見せる。
「…………」
全力でやって1週間。
「4日で終わらせる。」
決意を固めた兵部の目は、恐ろしいほどに鋭かった。
***
翌朝目を覚ますと、一通のメールが来ていることに気がついた。
内容は、事態が悪化して4日後まで帰れなくなったということだった。
受信時間が深夜であることから本当に緊急であるということがわかり、昨日我が儘を言わなくてよかったとほっとする。
「4日後か…」
残念ではあるが、今回はいつ帰ってくるかがわかっている。
兵部も頑張っているのだから、自分も頑張らなくてはと渚は気合いを入れた。
バベルに出社した渚は通常通り桐壺のもとへ挨拶に行った。
今夜は空いているかと聞かれ、空いていると答えると彼はニコニコして言った。
昨日出来なかった卒業パーティーをすると。
「7時にその店を予約したから、仕事が終わったら各自で行ってもらうことになってるのよ。」
柏木がそう付け足すのを聞き、渚は了承したと頷く。
「それから仕事のことなんだが、もう一人前になったから他の局員と同じように過ごしてもらおうかと思ってネ。」
桐壺は、定時までに出社して自分の持ち場で作業を始めろと言った。
ここに来て挨拶をすることも、もう必要ないと。
「わかりました。」
「じゃあ、頑張ってネ。」
「はい。」
失礼しますと述べて、渚は自分の職場へと歩を進めた。
私室として使わせてもらっている部屋の隣が、渚の仕事場となっている。
繋げられることになったあの部屋は、主に仮眠室としての役割を持たせるためにあった。
渚はチームを組んでいないため、本来ならばすることのない事務的な仕事もすべて自分で行わなければならない。
先週までの作業は触り程度で、書類以外にもたくさん覚えることがありそうだと、彼女はため息をつく。
「…頑張ろ。」
だが兵部も今頑張っているのだと思うと、自然とやる気が出てきた。
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