Long

□32nd
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「卒業おめでとう。」


テーブルに並べられた料理と、冷蔵庫にあるケーキ。


それらは兵部が渚のために作ったものだった。


「オメデト、渚!」


「ありがとう。」


今日は特別だからと、桃太郎も一緒に食卓を囲む。


2人より彼もいた方が楽しいだろうと、兵部が連れてきたのだ。


「桃太郎くんはパンドラのお仕事ないの?」


「アルケドコッチノ方ガ大事ダカラコッチニ来タンダ!」


誇らしげに言う彼を見て、渚は微笑む。


「………」


その光景を兵部はつまらなそうに眺めていた。


渚のために連れてきてやったんだ、別に僕と渚2人きりでも充分楽しめる。


声には出さず心の中で呟いたそれは、目の前で楽しそうに会話する彼女達には届かない。


祝いの席であるのに不機嫌になってきた兵部は、少し冷静になろうとキッチンへ移動した。


「……アレ、京介?」


「たぶんお水取りに行ったんだよ。私も取りに行ってくるからちょっと待っててね。」


「ジャア僕ハソノ間ニ唐揚ゲ食ベトクヨ!」


すっかり鳥の唐揚げに夢中な桃太郎は渚を快く送り出す。


渚は苦笑して、席を立った兵部のあとを追いかけた。




「京介さん。」


「ん?」


不機嫌そうな声と共に振り向いた彼は、同じように表情も不機嫌だった。


「今日は、ありがとうございました。」


「別に。早く桃太郎のところに行ってやれよ。」


拗ねているのが明らかに見てとれる兵部。


そんな彼の子供っぽい態度に、渚は苦笑した。


こうしてみれば、自分と同い年に見えるのに。


「桃太郎くんは唐揚げに夢中ですし、私は京介さんと話したかったんです。」


「………」


「駄目ですか?」


そう言ってそっと抱きつけば、兵部は腹にまわされた渚の手に自分の手を重ねた。


「…キミだけじゃない。」


「………」


「しばらく、このまま…」


2人で過ごしたい。


重ねられた手に力が込められ、渚は柔らかく笑んだ。




「オーイ、京介ー、渚ー!」


しばらく抱き合っていれば、聞こえていた爪と皿のぶつかる音がやみ、桃太郎が2人を呼ぶ。


「っ、この齧歯類…」


「…行きましょうか。」


「…………」


「今度は、たくさんお話ししましょう。」


嫌そうな兵部の手を取り、渚はリビングへと戻る。


「アレ、渚水ハ?」


「向こうで飲んできちゃった。」


「フーン。」


桃太郎はチラリと兵部を見る。


それに気づいた兵部は、勝ち誇ったような笑みを浮かべて繋いだ手を見せつけた。



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