Long

□31st
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それからの時間は幸せなものだった。


冷蔵庫の中がほとんど空だったこともあり、夕食の材料を買いにいくことから始める。


瞬間移動は使わず、今日は何を作ろうかと話し合いながらスーパーまで歩いた。


現地で食材を見るとまた食べたいものが増えてしまい、帰りは買うはずの量の2倍のものを持っていた。



「こんなにたくさん…すぐには食べられませんよ。」


何日分かわからないほどの量。


2人ならば期限内に食べきれるかもしれないが、兵部はまた行ってしまうのだ。


家に帰り食材を冷蔵庫に入れながら、渚は自分で言って落ち込んだ。


そんな彼女を見て、兵部はクスリと笑う。


「その心配はないよ。」


そして彼女の肩に手を載せぽんぽんと叩いた。


「思ったよりも早く片付いてね。明後日一旦あっちに戻ったら、数時間で全部終わりそうなんだ。」


「…っ……」


「また、一緒に過ごせる。」


泣きそうになった渚に微笑みかけ、今から使う分以外の全ての食材をしまい終えた。


「ほら、早く作ろうか。」


「っ、はい…」


そうして2人は調理を始めた。


さんざん話し合ったメニューのものを作りながらも、口は常に会話のために動いている。


作り終えて食べるときも話し続け、なかなか食事が進まない。


ようやく食べ終えた頃にはお互い喋り疲れていた。




衝動買いした輸入クッキーと、2人の好きな紅茶を淹れて、食後のゆったりとした時間を楽しむ。


「高校生活、お疲れさま。」


「まだ卒業してませんよ。」


「祝わせてくれないかい?気分が高揚してるんだ。」


兵部は嬉しそうに目を細めた。


「明日卒業式を終えれば、キミは一人前になるからね。」


バベルの保護下から抜け出した、一個人としての扱いを受ける。


「そうしたら僕は渚と付き合ってるって堂々と言えるだろ?」


「な…」


「桐壺クンは悔しがるだろうからね。これを言わない手はない。」


そう言って兵部は悪戯っぽく笑った。


「…それに、僕自身自慢したいしね。」


「………」


渚は恥ずかしくなり目の前のクッキーを数枚下を向いて食べた。


それでも、そう言われて嬉しくないはずはなく、口元には笑みが浮かんでいた。



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