Long

□31st
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靴を履いていたため玄関に瞬間移動した。


しかしそこからリビングまでの距離までもが煩わしかった。


渚に似合わず乱雑に靴を脱ぎ捨て廊下を駆ける。



「やぁ、おかえり。」


リビングの扉を開けると、普段通りの兵部がいた。


「あ……」


何か話さなければ。


そう思うのに言葉が出てこない。


彼に近づきたいのに足が震えて動かない。


「久しぶりなのに随分冷たいね。」


「…っ……」


違う、そうじゃない。


言いたかったがやはり声が出なかった。


するとソファにかけていた兵部は姿を消し、すぐ目の前に現れる。


「冗談だよ。悪かったね、寂しい思いをさせて。」


そして優しく抱き締められた。


「京介、さん…」


久々に感じる彼の温もりに、体の震えが収まっていく。


渚が安心しきったのを確認すると、ゆっくりと体を離し頬に口づけた。


「元気だったかい?」


「はい。」


会えなかったのは一週間だが、それでも2人にはとても長く感じられた。


「…いや、少し窶れたね。」


「そんなこと…」


「僕のことを考えてくれるのは嬉しいけど、ちゃんとご飯は食べなきゃ駄目だよ。」


渚はその言葉に頬を染めたが、数日前のことを思い出し少し口を尖らせた。


自分は夜中にこっそり会いに来たのに、と。


「…でも、会えて嬉しいよ。」


「私も、です。」


だがそれすらどうでもよくなるほど、会えた喜びは大きかったのだ。


「疲れてるだろ?夕食は僕が用意するから休んでていいよ。」


兵部はそう言って渚の頭を撫でたが、彼女はそれを否定した。


「私も手伝います。京介さんだって疲れてるでしょう?」


せっかく2人でいるのだから少しでも長く一緒に過ごしたい。


暗にそんな意味も込めて言った渚に、兵部は苦笑しつつもそれを断りはしなかった。


自分も彼女と一緒に過ごしたかったのだ。



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