Long

□30th
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“どうしたの?携帯ばっかり見つめて。”


教室で友人に言われた言葉を、渚は頭の中で反芻させた。


彼女の言う通り、不自然なくらい携帯を見つめている。


開くことなくただ見つめているだけのその行為は、誰の目からも不審に思えただろう。


自分でも、そう思うのだから。


「…………」


朝、兵部からメールが返信された。


自分が送ってから1時間以内に返ってきたためとても驚いたのを覚えている。


彼がどこにいるのか、何をしているかがわからないからだ。


そのメールに返信しようと思ったが、たまたま手が空いていただけで実はすごく忙しいのかもしれないと思うと、くだらないことでメールするのが申し訳なくなった。


だからこうして、端末を握り締め見つめている。


「会いたい、な…」


そんなこと、決して本人には伝えられないが。



正直なところ、自分がこんなにも気を沈めてしまうとは思っていなかった。


確かに兵部のことは好きだし、一緒にいたいとは思うが、仕事なのだから仕方ないと割りきれると思っていたのだ。


だが実際は、頭ではわかっていても心がというもので、精神的にとてもまいっている。


たった数日なのに、と好きな人に何日も会えない苦しみをもった人からすれば贅沢を言うなと怒られてしまうかもしれないが。


携帯を握る力を少し強めて、渚は目を瞑る。


すると突然電話が鳴り、彼女は肩をビクリと跳ねさせた。


「っ、はい!」


「あれ、渚やっぱり寝てた?」


「修兄…?」


慌てて出たため確認していなかったが、どうやら相手は賢木のようだ。


「どうかしたの?」


「いや、お前の部屋ずっと電気付いてないからどうしたのかと思ってさ。」


「え…」


言われて初めて、もう外が真っ暗だということに気づいた。


時計を見ればもう20時を回っている。


「う、うん、寝てたみたい。なんだか疲れちゃって…」


慌ててそう言い繕っては見たものの、彼は信用してはいなさそうだ。


「…あんまり無理すんなよ。」


「ごめんね心配かけちゃって。ありがとう。」


「あぁ。あ、それから…」


今度返事するときはちゃんと名前で呼べよ。


それだけ言い残して賢木は電話を切った。


「…………」


耳元からは無機質な機械音が聞こえている。


だが渚が思ったことはそれだけだった。


賢木の言った言葉に対しても、そういえば以前そう言われたと、その程度にしか思わなかったのだ。


「…ご飯。」


何か食べなければいけないが、作るのが面倒くさい。


そういえば、非常用にとカップ麺が数個買ってあったかもしれない。


今日はもうそれでいい。


渚はふらふらと立ち上がり、滅多に口にしないカップ麺を調理すべく湯を沸かし出した。



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