Long
□28th
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やっと少しずつ障害がなくなってきたというのに、次はこれか。
兵部の中をただ不安だけが支配してゆく。
強く抱き締めすぎて渚が苦しがっているのはわかっているが、こうせずにはいられない。
彼女のことを信じているはずなのに、どうしても不安を感じてしまう心。
「京介さ……、んぅ…!」
痛いから少し力を緩めてほしいと頼もうとした渚の後頭部を強引に掴み、噛みつくように荒々しく口づける。
唇が触れ合うだけのキスしか知らない渚は、案の定恐怖で体をビクリと跳ねさせた。
「……すまない。」
唇を離した兵部は、腕の力も緩めて彼女を優しく扱い小さな声で謝る。
「いえ……」
渚はもとに戻った兵部に安堵し、おずおずと彼の背中に腕をまわした。
唇を合わせるだけがキスだと思っていたが、ああいうやり方もあるのだと初めて知った。
だがなんとなく、荒々しいためかあまり好きにはなれなかった。
彼は一体どうしたのだろう。
何かあったことは確実だが、それが何なのかは皆目見当がつかない。
それでも、少しでも気分がよくなればいい。
そう思いながら、渚はまわした腕を動かしそっと兵部の背中を撫でる。
落ち着いたのか、兵部もまた優しく渚を撫でた。
「…引っ越してくる人って、修兄だったんですね。」
「そうみたいだね。」
肩口に顔を埋め、兵部は嫌そうに返事をする。
「でも京介さんとのことは知ってるし、他のバベルの人よりよかったかもしれません。」
「…………」
確かにそうかもしれないが、やはり手放しには喜べない。
そう思いながら眉間にしわを寄せたとき、空腹を訴えるように兵部の腹が鳴った。
「っ…!」
「もうこんな時間ですもんね。お昼にしましょうか。」
少し赤面した彼を可愛いと思いながら、渚は体を離し笑った。
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