Long

□28th
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「え…?」


驚きで他の言葉が発せられない渚に、賢木はゆっくりと繰り返した。


「だから、あの部屋に住むことになったんだって。」


そう言いながら、彼は渚の部屋の隣を指差す。


その部屋には忙しなく引っ越し業者が出入りし、家具が運ばれていた。



彼の話によると、以前話していたブッキング騒動が原因らしかった。


つい先日ようやく彼女たちの行動パターンを読んで家に帰ることができたが、あのままでは普通に生活することはままならない。


だがら引っ越したと。


「局長にも事態が深刻なら引っ越した方がいいって言われてさ。」


賢木は思い出すように一度目を閉じる。


「どっかいい物件ないですかって聞いたら、ここ教えてくれたんだよ。」


渚に変な虫が寄り付かねぇように周りの監視も兼ねてだとさ、と笑った。


「…………」


兵部は終始黙ったままでただ顔を顰める。


賢木の話が終わると、笑う彼を一睨みし静かに話し出した。


「それで、キミは僕をバベルに突き出そうってのかい?」


「京介さん…」


険悪な雰囲気を纏う兵部を渚は不安そうに見る。


「…いや、そんなことするつもりはないさ。その気があるなら知った時点で報告してる。」


賢木も兵部に目を向け、真剣な表情で話した。


「ま、お前がこいつに何かしたならすぐにでも言ってやるけどな。」


「修兄…」


賢木の言葉に、兵部は誰がそんなことするかと表情を険しくする。


「おっと。俺はまだ荷物の移動が終わってないから行くわ。じゃあな、渚。」


賢木は渚にだけ別れを告げると、自分の部屋になったという渚の部屋の隣に帰っていった。


渚は彼の後ろ姿を見送り、遠慮がちに手を振る。


それを見た兵部は、彼女の動かしていない方の腕を掴んだ。


「っ、京介さん…!」


彼は無言で玄関のドアを開け、中へ入っていく。


そして渚も中に入ったのを確認すると、荒々しくドアを閉めそのまま彼女を強く抱き締めた。


「…………」


突然そんな行動を起こした兵部にわけがわからずただされるがままの渚。


ひゅっと空気が抜ける音と共に、彼が何かを呟いた気がした。



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