Long

□27th
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「もうすぐこの教室ともお別れなんだね。」


「うん…」


いよいよ卒業を数日後に控えた日の放課後。


渚は一番仲のいい友達と教室で話していた。


「編入したからみんなよりも思い出は少ないかもしれないけど、それでもやっぱり寂しいよ。」


「期間じゃなくて内容が大事なんだから、寂しいのは当たり前だよ。」


呟きに返ってきた友人の言葉に、渚は曖昧に笑った。


彼女の言う通りなのだ。


今まで学校というものに行ったことがない渚にとって、今の生活は幸せそのもの。


他人からすれば何気ない当然のことでも、渚にとっては新鮮で思い出だらけだ。


「ねぇ、渚ちゃん。」


「ん?」


「せっかくだから、何か書いていかない?」


突然、友人はそう提案した。


「今は誰もいないし、普段見ないような場所ならバレないよ。」


「え、でも…」


「この先一生高校生には戻れないんだし、今をこうして過ごした証に。ね?」


「…………」


確かにその通りなのだが、やはり落書きというものに抵抗がある。


「渚ちゃん?」


「…そうだね、何か書こっか。」


迷ったが、結局その話に乗ることにした。


教室の後ろへ行き、友人は東側、渚は西側の隅に移動する。


そして2人はそこに置かれていたものを退け、油性ペンで思い思いのことを書き出した。


“こんな素敵な思い出を作らせてくださって、ありがとうございました。”


局長、管理官、修兄、協力してくださった皆さんへ。


一人一人の顔を思い出しながら文字を書いていく。


「あ…」


その時、頭に兵部の顔が浮かんだ。


彼と出会ってからの思い出も、どれも新鮮で素敵なものばかりだ。


「…………」


“京介さんもありがとう。”


大好きです。


そう、下の段に小さな文字で書き加える。


すると、誰かに見られたわけでもないのに赤面してしまった。


「書き終わったー?」


「う、うん。今終わったよ!」


向こうから友人に呼ばれ、渚は慌てて立ち上がり置かれていたものをもとに戻した。



「何て書いたの?」


「秘密。そっちこそ何て書いたの?」


「秘密だよ。」


2人は笑いながら教室を出る。


そして思い出を語りながら帰路についた。



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