Long

□26th
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休暇が開けて幾週か経った頃、いよいよ学校は卒業に向けて慌ただしくなってきた。


もともと義務教育を受けていなかった渚は進学しない。


卒業後は完全に特務エスパーとしてバベルで働くのだ。


それに不満があるわけでもなく、むしろ少しでも高校というものに通わせてもらえたことに感謝する彼女は、このことを素直に受け止めていた。


「薫ちゃんたちも今年小学校を卒業するんですよね。」


「そうだね。」


兵部は頷き、彼女を見た。


賢木が来て色々あった日から随分経ったが、以前よりも彼女は親しげになったように思う。


口調のことを除けばだいぶ距離が縮まったように思うし、遠慮がなくなった気がする。


もしかしたらその口調に関しての距離ももう感じていないのかもしれない。


あんなに頑なに嫌っていた敬語だったが、一度受け入れてしまえば慣れるまでに時間がかからず、むしろ聞いていて心地いい程にまでなってきている。


そうなったのも、互いに隠していることがないということのおかげかもしれない。


その点では彼に感謝すべきなのか、いや、別に彼が出てこなくてもうまくいっていた。


わざわざありがたく思ってやる必要もない。



こんな風に、心配することのない状態を幸せと呼ぶのかもしれない。


兵部はそう思った。



「どうかしました?」


「あ、いや…渚も卒業だし、それまでまた学生生活を一緒に送ろうかと思ってね。」


そう言ってやれば、渚は驚いたようで兵部を凝視した。


「冗談だよ。渚の残り少ない学生生活だ、邪魔するつもりはないよ。」

「別に、邪魔だと思ったわけじゃ…」


下を向いてしまった渚。


そんな彼女の頭を軽く撫で、兵部は微笑む。


「でも本当にいいのかい?好きだったんだろ、学校。」


「好きでしたけど、私はそれまでの学歴がありませんし…」


兵部の方を向いた渚は、それに…と続ける。


「私はやっぱりバベルにいる方が好きみたいです。」


そして朗らかに笑い、そう言った。


「…………」


そんなとき、渚の携帯が鳴る。


「すみません。……はい。え?あ、わかりました。」


通話し終えると、彼女は申し訳なさそうに兵部を見た。


「すみません、出動要請が入ってしまって…」


「いいよ、行っておいで。」


彼は特に嫌そうな素振りは見せず、渚を送り出す。


「すみません、行ってきます。」


彼女はもう一度謝ると、やや困ったような笑みを見せ瞬間移動で行ってしまった。



残された兵部は、渚がいた場所をしばらく見つめたあと、ソファにごろんと体を預けた。


「好きみたいなんです、か…」


時期を見ていつかはパンドラに誘うつもりだったが、どうやら無理そうだ。


兵部は小さく息をつき、片手を額にのせ目を閉じた。



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