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□それでもやっぱり好きだから
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「少佐ー、おめでとー!」


「おめでとー!」


「おめでとー!」


パンドラの子供たちは口々に京介に言った。



彼はきょとんとした顔で何事かと首を傾げている。



「…何がめでたいんだい?」


「何って、今日誕生日じゃないスか。」


葉が教えると、あぁそうか、と今思い出したかのように言った。


みんな、本当に京介のことが好きなんだと思う。



「少佐、おめでとうございます。」


真木ちゃんなんか、京介の前で頭下げて言ってる。




ぼーっと見つめてると、京介がこっちを見た。



あたしは京介の傍へ寄る。



「沙樹は言ってくれないのかい?」


「…っ……!」


言おうと思ってた矢先に催促されてしまった。


改めて言われると、恥ずかしくて言えなくなる。


ただ一言祝いの言葉を述べるだけだが、それでもやはり彼に対するものだと恥ずかしいのだ。


何も言わず、ちらりと彼を見る。


だがもう一度催促されるかと思ったのに、返ってきたのは意外な言葉だった。



「ま、いいや。」


「え…?」


京介はそれ以上は言わず、この部屋から出ていった。


先に催促されて恥ずかしかったとはいえ、あたしは京介に何もしていない。


今年こそはって思ったのに、そう決めた瞬間これだ。


あたしはそれが嫌で部屋を飛び出した。


そして京介を探す。


彼はすぐに見つかり、自身の部屋で寛いでいた。



「京介…!」


部屋のドアを勢いよく開けると、彼は驚いてこちらを見る。


あたしは彼がいたことに安堵した。


「どうしたんだい?そんなに慌てて。」


ひとつ深呼吸して彼が座っているソファーに歩み寄る。



「京介…」


「何だい?」



「ごめんなさい……」


謝ると、京介は笑みを返してくれた。


「僕の方こそ大人げなかったよ。沙樹が人前で恥ずかしがることは知ってるからね。」


彼の言葉で素直に言う決心をつける。


「うん。ねぇ京介、お誕生日おめでとう。」


「ありがとう。沙樹に祝ってもらえて嬉しいよ。」


祝いの言葉を述べれば京介はまた笑ってくれた。


でも、その笑顔は何処か寂しそうだ。



「…どうかした?」


「ん?あぁ、その…祝ってもらっておいて言うべきことじゃないんだけど、僕は誕生日が好きじゃないんだよ……」


「え…?」



どういう、こと?


「誕生日が来れば、また1つ歳をとる。沙樹と一緒に居られる時間はどんどん少なくなっていく…」

「ッ!」


たしかにそのとおりだ。


京介は見た目は10代だけど、本当は80歳を越えている。


どれだけ頑張ってもこの年の差は埋まらない。



一緒に居られる時間――



その言葉が、あたしの胸に突き刺さった。


「…それにね、もし今日が無かったら僕はこの世に生まれてこなかったかもしれない。そうすれば、こんなにも皆が嫌な思いをしなくて済んだ……」


「!!」


あたしは耐えられなくなって、京介を力一杯抱き締めた。



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