Long
□22nd
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「おかしい…」
兵部は街中で、一人呟いた。
渚と親しい仲にある学生からも、彼女の情報が読み取れない。
本当に無意識で自分の情報を隠している。
こんなこと、意識的にできるものじゃない。
ここにいてもこれ以上情報を得ることはできないだろう。
そう判断した兵部は、自宅へと瞬間移動した。
「だいたい、一番彼女の思考が残っていそうな場所にも残ってないんだ…」
見つけるのはなかなか難しいだろう。
意識的ではないから、いつこれが解けるのかもわからない。
「渚……」
会って話したいことが、山ほどあるというのに。
「…だが逆に、すぐに情報が読み取れるようになったらそれこそ問題だな……」
難しい。
兵部はそう言ってため息をつく。
そしてソファに体を投げ出し、天井を見つめた。
もうこの天井の下に渚はいない。
そう思うと悲しくなる。
しかし――
「…絶対に、見つけてやる……」
僕にはあの手紙がある。
彼女が僕を好いてくれていると、そう書かれた手紙。
あれのおかげで僕には踏み出す勇気が持てる。
だが彼女は何も知らない。
だから、今度は僕から言わせてほしい。
僕も同じ気持ちだから、もう怖がる必要はないのだと。
「言わせてくれよ…」
切なげにそう言って、兵部は上に向かって手を伸ばす。
そして誰かの頬を撫でるように優しく動かし、そのまま目を閉じた。
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