Long

□15th
1ページ/4ページ


「じゃあ、いってらっしゃい。」


「あ、うん。いってきます…」


宣言通り、兵部は本当に渚を送った。


彼女は自分で瞬間移動することもできるのだが、何故か兵部はそうする。


確かに単独で瞬間移動なんかしたら即話題に上るだろうし、その方がいいのかもしれないけれど…



振り返ってみれば、兵部は笑顔で手を振ってくれている。


渚も手を振り返すと、少しあとに“じゃあね”と口だけ動かして何処かへ行ってしまった。



「バス通学もできるんだけどな…」


嫌なわけではないが、やはり迷惑がかかると思ってしまい、素直に喜べない。


「……頑張ろ。」


小さく呟いて、渚は教室に向かった。




当たり前のことだが、廊下ですれ違う人は皆知らないばかりだ。


せめて同じクラスの人だけでも今日中に覚えたい。


少し大変かもしれないが、頑張る価値はある。


彼女は決意して、歩く速度を上げた。



「岡崎さん!」


教室に着いて引き戸を開けると、渚は突然誰かに呼ばれた。


「ねぇ岡崎さんって彼氏いるの!?」


「へ?」


いきなり何を言い出すのだろうか。


「この間岡崎さんっぽい人がデートしてるの見たから、そうかなーって。」


そう話す目の前の彼女は、目をキラキラさせている。


「え、岡崎さん彼氏いるの!?」


違う人が食い付いてきた。


この年頃だとそういう話で盛り上がるらしく、他の者の反応も似たようなものだった。


「いないよ。多分それ、私じゃないんじゃないかな。」


苦笑と共に返すと、まわりの人はすごく残念そうにした。


「えー残念。」


「似てたんだけどなー。」


「ごめんね。」


渚は否定したが、恐らくそれは彼女と兵部のことだろう。


しかし兵部は渚の彼氏ではない。


隠しているようで気が引けるが、言ったら話がややこしくなり全然違う形で捉えられる。


それは何処でも同じだろう。


「ねぇ、その人ってどんな人だったの?」


少し間を置き、誰かが聞いた。


その人とは、渚に似た人と一緒にいた人のことだろう。


「えーっと、すっごく綺麗な銀髪で、長さは肩くらいで…」


あぁ、京介さんだ。


その言葉で渚は確信した。


「顔もすっごい美形で、あんなかっこいい人初めて見たってくらいの人!」


話し方に熱が籠ってくる。


回りの人たちも、どんな人物なのか想像して羨ましがっていた。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ