Long
□2nd
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「どういうことですか…?」
表情には出ていないが、その口調には少し怒りが含まれている。
「あ、いや。ちゃんと説明するからっ!怒らないでくれたまえ!」
怯え出す桐壺。
「実はね、最近渚ちゃんのマンションのまわりを怪しい男がうろついてるのよ。それも1人や2人じゃないのよ…」
彼のヘタレぶりに半ば呆れて柏木が説明し出した。
「怪しい、男…?」
その単語を聞いて渚の肩がピクリと動いた。
何か寒気がしたのだろう。
「だからネ、君には申し訳ないんだが、引っ越して安全に暮らしてほしいんだヨ。」
「まぁ、そういうことなら…」
彼女は渋々了承したが、それでもやっぱり納得できないようだ。
今の部屋を気に入っているため、引っ越したいと思えない。
今以上でなければ、やはり気が進まない。
「…渚クンにも色々思うところはあると思うからネ、新しい部屋は沢山用意した。好きなのを選んでくれたまえ。」
彼女が何を言いたいのか知ってか知らずか、そう言って桐壺は渚の前に沢山の資料を置いた。
彼女はそれを読み、少し難しい顔をしながら考える。
そしてすべて見終えると小さく息をついた。
「この部屋ならいいかな…」
見る前よりは幾分機嫌の良さそうな顔をした彼女は、そう言って自分が見ていた資料を桐壺に見せる。
「い…!」
「…駄目ですか?」
「い、いや…いいんだヨ。じゃぁ引っ越しの準備もあるだろうから、もう帰っていいヨ。」
「ありがとうございます。では、さようなら。」
一礼して渚は部屋をあとにした。
「…やられましたね局長。」
「ウム…まさかあの部屋を選ぶとは…」
「えぇ。」
柏木桐壺は渚が部屋を出ていったあとに話していた。
もちろん、彼女には聞こえてない。
だが、精神感応能力者であるために相手の心情は伝わってくる。
「でも良いんだヨ!渚クンの為なんだからネ!!」
その言葉だけは、大声を出したせいか直接耳に入ってきたようで渚は頬を緩ませた。
過去に保護された身であり高超度のエスパーである彼女は、バベルで大切に扱われてきた。
給料もいい上に、居住地も用意してくれる。
しかし、それらを抜きに考えてもバベルは彼女に対して優しい。
渚は頬を緩ませながら廊下を歩いていった。
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