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□擦れ違う心
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「もうすぐね。」
「うん…」
紅葉の言葉に奈都流は力なく答えた。
兵部が招待を受けたどこぞのパーティー。
そこに、奈都流は出席することになっている。
理由は、兵部が興味がないから代わりに行けと命令したからだ。
自分の代わりに出席するという任務だと言われれば、奈都流が反論できないことを彼は知っている。
それにこの任務は、日頃働き詰めな彼女に休息を、という兵部からの細やかなプレゼントでもあるのだ。
たまには息抜きして、楽しんでこいと――
「あんまり嬉しそうじゃないわね。」
「まぁ、ね…」
苦笑しながら返すと、紅葉は呆れたと言うように溜め息をついた。
「…まだ仲直りしてないの?」
「……………」
無言は肯定。
そう、これこそ奈都流がパーティーを楽しみにしていない理由だった。
出席するのは何も彼女だけではない。
招待状が2枚来ていたこともあって、奈都流の恋人である真木もまた、同じ理由で参加することになっているのだ。
普段なら喜ぶ、少なくとも奈都流は。
だが彼らは先日些細なことで言い合いになり、もう何日も口を利いていない。
正直、パーティーに顔を出すなどあり得ないくらい剣幕なのだ。
一緒に出席するには、あまりにもよろしくない雰囲気の2人。
だがパーティの話をされたあとに仲違いしてしまったため、了承してしまった彼らは参加しなければならない。
「真木ちゃんのことだから、もう怒ってないわよ。」
「私もそうは思うんだけど…」
度重なる任務で顔を会わせる機械も少なく、顔を会わせても気まずくなって逃げてしまう。
そのせいで離れてから随分と日が経ってしまい、余計に話しづらくなってしまったのだ。
最近ではもうお互いの姿を視界に捕えることもないように思う。
「食事は外で済ませてたし、ここでも逃げ回ってたものね。」
「うっ……」
過去の自分を少し後悔している。
しかし、悔やんだところでどうにもならない。
「まぁ招待状は別々なんでしょ?だったら現地できっかけ見つけて仲直りすればいいわよ。」
それまでに仲直りするのが一番いいけどね、と紅葉は続けた。
「そうだよね…」
紅葉の意見を肯定しながらも、それができないことは自分自身よくわかっていた。
今回のパーティーは、珍しくパートナー同士で1枚ではなく個人に招待状が送られてきている。
普段なら気にも止めないが、今回はラッキーだと思った。
その珍しい制度に少なからず感謝している自分がいる。
まぁ、もしパートナー同士で1枚ならば、現地へ行く前にどうしても話す機会を作ったのかもしれないが。
そうならなくてよかったと思うのは、自分の気が弱いからだろうか。
奈都流は少し自嘲気味に笑った。
「パーティー用のドレスは持ってる?」
「うん。それなりに通用するやつは…」
「じゃあ問題ないわね。それ見たら真木ちゃんも何か言ってくるわよ。」
「だといいけど…」
不安は募るばかりだ。
何故任務でもないものにこんなにも頭を悩ませなければならないのか。
奈都流は溜め息をつき、クローゼットを見つめた。
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