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□寧ろ御褒美
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「トリックオアトリート!」


ドア越しの廊下から聞こえてくる無邪気な声と足音。


その騒音に、私は顔をしかめて目を伏せた。


もたれ掛かっているソファは座り心地がよくて気持ちがいい。


「…何故ここにいる。」


頭上から聞こえた声。


見上げれば、ソファの後ろに立った司郎が私を見下ろしている。



「彼女が彼氏の部屋に来るのに理由がいる?」


そう返すと、司郎は目を見開いて驚いたようだったが、すぐに目を伏せ小さく息をついた。


意外と彼女大事な彼は追い返したりせす、黙って私をこの部屋に居させてくれる。


その優しさに甘えてばかりいてはいけないのだが、ついいつの間にか甘えてしまう。


暫く司郎を見つめていると、また小さく息をついて私の隣に座った。



「大方、この騒ぎが嫌で逃げてきたんだろう。」


「………。」



この騒ぎ――


そう、今日は10月31日。


世間一般でいうハロウィンだ。


先程聞こえてきた無邪気な声と足音も、これが原因。


子供たちがはしゃぎ回ってお菓子を要求しに来るのだ。


「何処にいても絡まれる時は絡まれるだろう。」


「そんなことないわ。ここなら子供たちも来ないはずよ。」


少なくとも私の部屋にいるよりは、絡まれる可能性は低いだろう。



別に私は子供が嫌いな訳じゃない。


ただ、もうハロウィンだといって騒ぎ立てる歳ではないだけなのだ。


「だいたい、少佐が悪いのよ。いい歳して毎度毎度騒ぎ立てて…」


「……言うな。」


それは司郎もわかっているらしく、眉間の皺が少し深くなった。


「紅葉だってコレミツだって、参加したくなくて引き籠ってるでしょ?」


言い方は少し悪いが、他の大人もはしゃいだりせずに部屋でおとなしくしているはずだ。


少なくとも去年はそうだった。


「紅葉はちょうど任務で出ている。コレミツは…今年はリビングで菓子を配るらしい。」


「嘘!じゃあサボってるの私たちだけ!?」


「いや、俺は別にサボっているわけでは…」


そう言いながら段ボールを出してきた司郎。


「一応寄ってきた子供には渡すつもりでいる。」


つまり、その箱いっぱいに菓子が詰まっているということだ。


司郎がそんなに沢山の菓子を買い込む姿は想像しづらく面白いが、発せられた言葉の本来の意味に愕然とした。



「じゃあ、私だけ…?」


「その通りだよ、まったく。」



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