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□Cherry Blossom
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近頃奈都流の様子がおかしい。


具体的にどこが、と聞かれても答えられないが、何か変なのだ。


強いて言うならそう、機嫌が悪い。



「奈都流…」


「何?」


「…いや、すまない。」


顔には現れていないものの、その態度から明らかに変だとわかってしまう。



初めのうちはあまり話しかけない方がいいだろうと、真木は奈都流に配慮していた。


だが彼女の機嫌は悪くなる一方だった。



一体何故あんなにも機嫌が悪いのか。


逆にこちらが怒りたくもなるのだが、このままでは前に進めないと真木は理由を聞いてみることにした。



「奈都流。」


「…何?」


「…何をそんなに苛々している。」


それを聞いた瞬間、彼女は顔をしかめた。


ついに表情にまで現れたのだ。


「…別に、何でもないわ。」


しかし態度とは打って変わって、吐き出された言葉にそれを理由付けるものはない。


真木も彼女の答えに眉間を寄せた。


「その言葉を信じると思うのか?黙っていてはわからん、話せ。」


苛々とした様子できつい口調の真木に、奈都流もさらに苛立った。


「何でもないって言ってるでしょ。放っておいて。」

目も合わせず踵を返し去ろうとする奈都流。


まだ話は終わっていないのだと、真木はとっさに奈都流の腕を掴んだ。


だが、


「触らないで!」


乾いた音が響く。


奈都流が真木の頬を叩いたのだ。


「あ……」


突然のことに驚いた真木は、そのまま動かない。


「…っ……」


様々な感情が入り交じりその場にいられなくなった奈都流は、瞬間移動で消えてしまった。


それが、今朝の出来事だ。




あのあと、やっと動けるようになった真木は自室に戻り、一体何故あのような態度をとられたのかと考えていた。


どう考えても彼女が悪いが、あそこまで怒るのには何か理由があるのだろうか。


「……………」


叩かれた頬にそっと触れる。


その時、そういえば毎年4月初めの奈都流はどこか暗い雰囲気を持っていたことに気がついた。


しかし、それもこのくらいの時期にはもとに戻っていたはずだ。


何かあるのか、真木は記憶を辿る。


そして一度だけこの時期にもそれが直らなかったことがあったのを思い出した。


だんだんと暗くなっていった奈都流は、確か病気にかかってしまったのだったか。


あのときはお互い話さなかったため見舞いなどはしなかったが、随分と心配した。


しかしその病気も治り、奈都流はだんだんもとの彼女に戻っていったはずだ。


夏頃には完全復帰していただろう。


「何が……」


眉間に皺を寄せ、今回とその時に何が起きたのか考える。


「…っ……!」


わかった、何故奈都流の機嫌が悪いのか。


もしあれが理由ならば、完全に悪いのは自分だ。


その理由が分かった途端、いてもたってもいられなくなった真木は、自室を飛び出した。


理由があれならば、今彼女はあの場所にいるだろうと確信して。



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