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□嘘の所為
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今日の奈都流はおかしい。


何か怒らせるようなことをしたのか。


それともただ単に今日はそういう気分なのか。


はたまた、嫌われてしまったのだろうか……


それを考えて、否定するようにすぐ首を左右に振った。


だが彼女の行動はどこか、いや、全部おかしかった。


朝目が覚め、挨拶をした時に素っ気ない返事が返ってきたのがそもそもの始まりだ。


混乱する頭で、真木はそのときのことを思い出した。





「ん……奈都流…」


目が覚め、真木は隣に奈都流が眠っていないことに気付いた。


不安になり体を起こす。


すると、着替えを始めていた彼女を視界に捉えることができた。


「っ、おはよう……」


「あぁ、起きたのね。」


存在を確認して安心したのも束の間、返ってきたのはとても冷たい反応だった。


無感情なその声音にいくらか恐怖を覚える。


「奈都流、一体何が…」


「どうもしないわ。それより、早く起きないと。」


「…っ……」


おかしい、いつもの奈都流ではない。


何が起きたのか全くわからない真木は、その恐怖に怯えながらもベッドから起き上がり着替えを始めた。


チラチラと彼女の方を見るも、あちらが自分を気にする様子はない。


「先に行ってるわね。」


「あ、あぁ…」


嫌だ、行ってほしくない。


いつもならば朝食の席へは一緒に向かう。


どちらかが早く用意し終えても、必ず待っていたはずだった。


真木は急いで身支度をし、彼女もいるであろうリビングルームへと走った。



「あぁ真木さん、おは…、どうかしたんスか?」


リビングに着いてすぐに声をかけてきたのは葉。


「ボタン掛け違えてるし、ネクタイもゆるゆるだし…」


彼に言われて初めて気が付いた。


ちっとも用意などできていなかったのだ。


「あ、いや…急いでいてな…」


「別にまだ遅いってわけじゃないし、そんなに慌てなくてもよかったんじゃない?」


すぐ傍を通った紅葉にも指摘されてしまった。


焦りがすべて行動に出ている。


「まぁ、ちゃんと準備できたら真木ちゃんも手伝って。」


「あ、あぁ…」


彼女に曖昧な返事をし、深呼吸してから改めて衣服を正す。


あまりにも情けなく、自分に舌打ちしたい気分になった。



食事の席で向かい側に座る奈都流。


だが話をすることもなければ、目が合うことすらない。


「そうだ、真木。」


「っ、はい。」


兵部が真木に話しかけた。


「僕は今日女王に会いに行くから、頼んだよ。」


「は、はぁ…」


いつものことではないか。


何も報告するほどのことではと真木は理解できず眉をしかめる。


だがそのあとの台詞に耳を疑った。


「じゃあ少佐、ご一緒してもよろしいでしょうか?」


奈都流がついていくと言い出したのだ。


「別に構わないけど、キミも彼女たちに会うのかい?」


「いえ、皆本くんか賢木くんに。」


「な…!」


バベルの眼鏡かあの女たらしの医者に会いに行く。


奈都流が今浮かべている表情は、今日一度も自分に向けられていない笑顔だ。


激しい苛々と不安が入り交じった感情が真木を支配し、そのあとのことは何も覚えていない。




そして真木は今自室のベッドで何をするでもなく横になっている。


ここまでどうやって帰ってきたのかもわからないくらいだ。


頭にあるのは奈都流が自分に向けた冷たい声音と、自分以外の男に会いに行くという事実。


仕事など、手につくはずもない。


思い立った真木は、この不安の原因である彼女を探すべくアジトを飛び出した。



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