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□Work or Love
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「真木ちゃーん。」



奈都流は真木を呼ぶ。


さっきからずっとこの調子だ。


もう何度目だろうか。


「………」


しかし返事はない。


無言だった。


というより、彼は仕事していたのだ。


この部屋には誰もいないが、もし他人が見ていれば奈都流が真木の邪魔をしているように見えるだろう。


「真木ちゃーん。」


もう1度呼んでみる。



「…………」


やはり返事はない。


ここ数日、このやり取りが延々と繰り返されている。


理由は単純、奈都流は構ってほしいのだ。


それが迷惑だということは百も承知。


しかしこうも仕事ばかりで会話がないと不安を感じてしまう。



「真木ちゃん?」


肩を叩いてみる。



「仕事中だ。」


一瞬ピクッとしたが、振り向かずにパソコンに向かったまま返事をされた。



「…………」


ちらりと横目で真木を捉え、奈都流は小さく息をつく。


確かに寂しいし、不安にもなるが、この反応も仕方のないものだ。


彼は仕事をしている、それは紛れもない事実である。


お互いもう子供ではないし、しなければならないことや我慢しなければならないこともある。


奈都流とて、邪魔をしたいわけではない。


次に呼んで、返事が返されなければ諦めよう。


そう決心した彼女は、もう一度だけ彼の名を呼ぶ。



「真木、ちゃん…?」


あまりにも弱々しい声だったからか、真木はゆっくりと振り向いた。


しかし、どうした?とも、何だ?とも言わなければ、彼女の名を呼ぶこともない。


諦めよう。


そう決心して奈都流は小さく息をついた。


「…私、行くわね。」


「何故だ。」


帰ると言えば、驚くほど早く返ってきた返事。


理由を聞くということは、その先も会話が続くということだ。


「何故って、真木ちゃん仕事してるし…」


「ここに居ろ。」


「……は?」


今なんと言ったか。


聞き間違えたのだろうか。


「聞こえなかったのか?出ていくな、ここに居ろ。」

間違いではなかった。


邪魔をしたくはないと、仕方なく帰ると言った奈都流に対し、相手にもしないくせにここに居ろと言う。



「っ…真木ちゃんのそれ、自分勝手だと思うわ……!」


自分だって居たいのだ。


それでも、邪魔はしたくない、仕事が終わってから話せばいいと、我慢して出した結論だったのに。



「…もう行く。」



真木を一瞥し、奈都流は部屋の出口へ向かう。



「…っ………」


あんな風に言いたくはなかった。


ただ彼と共に穏やかなときを過ごしたかっただけだった。



泣き出しそうになるのを耐え、ドアノブに手をかける。


その瞬間―――



真木の炭素繊維が伸びてきて、拘束された。



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