Long

□19th
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「………ん…」


意識を取り戻した渚はゆっくりと目を開ける。


視界に広がるのは見慣れた天井だった。


「あれ…私……」


何故自分がここにいるのかと考えを巡らせる。


そして徐々に働き出した頭で最初に思い浮かんだのは彼だった。


「京介さん…!」


すぐに起き上がり、彼のもとへと行こうとしたが、体が悲鳴をあげて起き上がることができない。


「…っ……」


そのままベッドに体を沈めていれば、他のことも徐々に思い出していく。


両親のこと、自分の超能力が暴走したこと、どれをとってもよくないことばかりだ。


だが、何よりも気にかかるのは兵部のこと。


「…パンドラ……」


その存在は知っていたし、犯罪組織だということも聞かされてはいた。


だがどんな人物がいるかなどの内面的な情報は一切聞かされていなかった。


彼がそのリーダーだったとしても、それを気にしないことはできるのではないのか。


今まで彼は、渚がバベルの特務エスパーだと知っていながら接してくれていたのだ。


ならば自分も、同じように兵部を個人として見て一緒にいることができるのではないか。


そんな考えが浮かぶも、告げたときに見せた彼の悲しそうな表情を思い出し、自信をなくす。


やはり彼は気にしているのだろうか。



仰向けにしていた体を、うつ伏せにしようと渚は寝返りをうつ。


すると、そのときサイドテーブルに見覚えのないメモが置かれているのが見えた。


痛む腕を伸ばし、それを取る。


「…!」


書かれていた言葉は、渚が今もっとも受け入れたくないものだった。


“もう会わない”


その一言と、名前が書かれていた紙。


初めて見た彼の文字は、とても綺麗なものだった。



先程までの考えも、この一言で一蹴される。


「…っ…ぅ……」


渚の頬を涙が伝った。


彼がパンドラのリーダーだからではない。


そんなことは気にしていない。


彼にもう会えないという事実が渚を苦しめたのだ。


隣人であり、友人であり、家族のような存在でもある兵部に。


手紙を持ったまま体を丸めて縮こまり、渚は泣き続けた。







泣き疲れ、渚はそのまま眠ってしまった。


目覚めたのは翌日の昼近くだった。


「…あ、やだ……」


手に持っていた手紙は、濡れてはいなかったが握ってしまったため少し皺になっていた。


ゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。


体は少し痛んだが、昨日ほどの痛みではなかった。


時計を見れば、まだ正午にはなっていないと言えど、いつもの出勤時間を大分過ぎている。


「報告行かなきゃ…!」


渚はベッドから降り、朝食を済ませて身支度をする。


すべて終えると、バベルの局長室へと瞬間移動した。



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