Long

□17th
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上空から、渚は敵を見下ろす。


ここまで来ても透視能力が使えない。


事件発生まであと10分弱だ。


だが彼らを見る限り争っている様子はない。


それどころか、話し合いをして何かをし出す前のようにも見える。



「直接確かめるしかないのかな…」


仕方ない、と小さく零し、彼女は地上に降り立った。




まだ彼らは気付いておらず、渚は会話に耳をそばだてる。


「…っ………!」


聞こえてきた内容は、明らかに反エスパー思想のもの。



普通の人々だ。



早く皆本に知らせなければ。


しかし、それならばどうしてエスパーが暴走するなどという予知が出たのか。


一瞬そんなことを考えて動きを止めたことを、渚は後悔した。


敵のうちの1人が彼女の存在に気付いたのだ。


「っ、お前、エスパーか!?」


彼がそう言えば、その仲間も一斉に渚を見る。


今は肉眼で見ることができる距離感のため、彼らの顔ははっきりと認識することができる。


「なっ……!」


その中に見つけた一人の女性。


その人物はいくらか年を重ねているが、渚によく似ていた。


まわりの者たちも、彼女らがあまりにそっくりなために驚いている。


だが渚に似た女性とその隣にいた男性だけは青ざめていた。



「…あ、…あ…ぁ……」


女性がか細く震えた声を発する。


声も、どことなく渚に似ている気がした。


あんなに小さい頃のことなのに、今でも鮮明に覚えている。



見間違えるはずがない。



「…お母さん…お父さん……?」


「っ、呼ぶな化け物!」



小さな声だったが彼らには聞こえたらしく、表情を一変させ怒りを露にした。


父親であろう人物に怒鳴られ、今度は渚の表情が凍る。



「…生きて、たの……?」


震えた声のまま、母親であろう人物も渚に向かって言葉を発した。


疑問形ではあるが、その言葉は答えを必要としていない。


「…っ、どうして生きてるのよ!私は確かにあの時捨てたのよ!」


ああ、やっぱり母親だ。


ヒステリックに叫ぶ彼女を見て、動揺を隠すように拳を握る。


それは、同時に怒りを隠していたのかもしれない。


「やはりエスパーか!」


「エスパーなんてこの世に不必要なのよ!」


彼女は彼らの集まる場所の中央にあるECMに速足で歩み寄る。




「要らないわ!あなたみたいな子、生まれてきたのが間違いなのよ!!」


そしてそう叫びながらECMを起動させた。


だがそれと同時に、彼女の言葉に反応した渚の目が大きく見開かれた。



生まれてこなければよかった―――



存在を否定するそれは、彼女が幼少の頃に親から言われた言葉の中で、一番傷ついたもの。


今回意図して使ったのか口を突いて出たのかはわからないが、渚が癇癪を起こすのには充分だった。



To be continued.
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