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□心は晴れ
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雨足は先程と変わっておらず、外に出てみればほとんど人はいなかった。


口論していた間に皆室内へと逃げ込んだのだろう。


出歩いているのは、雨にも負けずイチャイチャしているカップルか、仕事のために仕方なく移動しているスーツ姿の人だけだ。


真木の場合、どちらかと言えば見た目は後者なのだが。


「どうせ誰も周りなんか見てないわよ。」


奈都流は歩き出す。


真木も仕方なくそれに合わせて歩き出し、彼女の手から傘を取り上げた。


こういうのは自分のすることだと思っているし、彼女が持つと長身の真木のために腕を伸ばさなければならない。


「あ、ありがと。」


「あぁ。」



そしてそのあと2人は無言で歩き続けた。


休日を共に楽しもうというのが目的であるため、特に行きたい場所などはない。


この先に確かファミレスがあったはずだし、そこで雨宿りをしようか。


その少し向こうには小さな喫茶店もあっただろうし、そこへ行ってもいい。


とにかく真木は、この外から内側の様子が丸見えの傘から早く出たかった。


誰も見てないとは思うが、やはり恥ずかしさというものがある。


「奈都流、やはりどこかで雨宿りしよう。このままでは2人とも濡れる。」


「あら残念、結構楽しんでたのに。」


「お前な…」


やはり面白がっていたかと真木は顔を顰めた。


「だって2人でいるときはそんな反応しないじゃない?」


たまには優位に立ってみたいのよ。


奈都流はそう言って笑った。


そんな彼女の台詞に呆れ、真木は溜め息をつく。


「そんなこともないだろう。」


「…そういうことにしておくわ。」


そして奈都流は真木の腕に抱きついた。


「おい…」


「すぐそこまでだからいいでしょ?」


「…………」


それでも駄目だ、という言葉を真木は飲み込んだ。


少しだけ、まぁいいかと思ってしまったのだ。


「あそこに着くまでだぞ。」


「いいわよ、それでも。」


店に着くまででも充分楽しめるし、ファミレスに入る彼を見るのもまた面白いだろう。


奈都流はその光景を想像して笑った。


「…何かまた妙なことを考えてないか?」


「別に。何食べようかなと思って。」


明らかに何か企んでいそうな笑顔を携える奈都流に、真木は眉根を寄せる。


「ほら、行くんでしょ?」


「あ、あぁ…」


奈都流は急かすように、抱きついたままの真木の腕に体重をかける。


そのせいでバランスを崩しながらも、彼は2人が濡れないように傘を差し続けた。


未だ降りしきる雨の音を聞きながら、2人は互いに顔を見合わせる。


奈都流はもう一度微笑み、真木は苦笑するように眉を下げて口の端だけあげた。



END.
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