Ge†・Φffer

□million films(たぬ様より頂き物v)
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「…椿くん、何か怒ってるの?」



信号待ちのとなり側。




和が少しふくれていた。














夕暮れに染まる、オレンジの空と海を見ながら海岸沿いの道を歩く。






先日のブログ書き込み事件以来、久々に和と二人で過ごす。

筋肉はいつでも使っていいよ、と合鍵を置いていってくれた。







昼間は暑すぎた熱が風にさらわれて、今はちょうどいい。



俺達の手にはスーパーの買い物袋がぶら下がっている。



夕飯の買出しの帰り道。



和は結局最後まで、何を作るのか教えてくれなかった。




いつもコンビニや弁当屋の適当な食事をしてると知って強引にスーパーへ連行された。





(……不器用なこいつに、何が作れるんだ…?)






想像がつかない分、楽しみでもある。







ちかちかと点滅する隣の信号を横目で眺める。




(やべぇ…。もしかして俺、にやけてる?)





口元を引き締めた後の和の台詞が先ほどの、あれだった。










だまりこくってた俺を相変わらずのふくれっ面で横目ににらむ。





その不機嫌そうな横顔に首から下げたライカの一眼レフのシャッターをきった。




「ちげーよ。ちょっと、曲考えてた。」



「曲?」



「ん。何か、役者だけじゃなくて、歌とかいろいろやってみろって。」



「もしかして歌手デビュー!?」



ぱっと明るくなった顔にまたシャッターをきる。





「ばーか。いきなりするかって。」




ライカのファインダーを覗いたまま、空を眺めて茜空にぶら下がった電線をきりとる。








最近のお気に入りは、ちょっと無理して買ったこのライカだった。




どこかへ出かける時は必ず首に下げている。







こうやって、和と居る空間を少しずつ切り取って集めていく作業は思いの外、楽しい。




いつか、100万枚以上の思い出を二人で作れたらいいな。









…ぜってー言わねぇけど。そんなクサイ台詞。








砂浜を散歩する犬を撮る。



キラキラと光る波打ち際で何かを探しているようだ。





「椿くん、危ないよ」




すれ違う自転車から守るように和が俺の腕を引く。




「お、サンキュ」




「椿くん、作曲とかできるの?」



「んーー?ギターならちょっとかじったことあるしな。
浮かんだ言葉に合わせて、コード探るぐらいなら、な。」



レンズを再び和へ向ける。



「僕…聴いてみたいな。椿くんの歌。」



「ぜってーー、ヤダ。」



「ええっ!?なんでーー?」



「なんででも。」




和は不服そうに唇を突き出す。




そんな恥ずかしいことできるかっつーの。
和のこと考えて歌詞作ってるのに。



不思議と和の傍に居る時は、メロディーや歌詞が生まれてくる。



2人で過ごす瞬間を閉じ込めたラブソングなんて聞かせるには恥ずかしすぎる。









不意に、雨粒が鼻先をかすめる。





「あ……雨だ。」






茜色の空が急に暗くなる。



「夕立だろ。激しくなる前に、どっかで雨宿りするぞ。」




愛用のライカはTシャツの下に潜らせて、和の手を握る。



「うんっ」




嬉しそうに俺の手を握り返す和。




二人して子どもみたいに走り出した。







しばらく先に、屋根付きのバス停を見つける。




小さな椅子が3つ並べて置かれていた。





「ここで、止むの待ってようか。」




和が袋を降ろして、椅子に座る。




俺も、その隣りに座った。



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