HÅyaRiGAmi
□警視庁のノスフェラトゥ
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どんよりとした厚い雲がかかった日であった。
その日は、もう立夏も過ぎたというのに妙に肌寒く、吹く風もどこか冬のようにカラカラと乾いていた。
警視庁の地下にある警察史編纂室には、風海と小暮しかいない。
今日は特に片付けないといけない仕事もないので、ふたりは事件記録を各々で読んでいた。
誂え向きに、ここには奇怪な事件の資料だけは膨大にある。
読む事が嫌いでない風海にとっては格好の暇潰しであった。
風海は何の気無しに、棚に収められた事件資料の一冊を選び、その場で立ち読みしていた。
資料に書かれた事件は、俗に言う【訳あり不動産物件】として有名なアパートの一室に居住した若い恋人同士が、突然失踪してしまったという事件であった。
じつはこの部屋、このふたりが住む前に若い女性の自殺があった『イワクツキ』の部屋だった。
その部屋は都心にあり、3LDK・風呂トイレ別・最寄駅から歩いて5分というかなりの好条件であったが、そういった経緯のせいで誰も住み手がつかなかった。
大家は仕方なく、その部屋を格安の家賃で貸し出す事にした。
するとすぐに借り手がついた。
まだ大学卒業したばかりの金の無い若い男女がそこに住むと決めたのだった。
自殺等の事故が起こってしまった現場(部屋)の説明は法律で義務化されているので、当然大家もその旨男女に伝えたが、それでも良いと彼らは希望し、部屋の賃貸契約が成立した。
そして、数ヶ月経ったある日…その男女は忽然と姿を消した。
始めは夜逃げかと思われたが、家財道具のみならず銀行通帳や印鑑の類、運転免許証や健康保険証、すべてがその部屋に残ったままであり、夜逃げにしては不自然だった。
彼らがどこへ行ってしまったのか全く手掛かりは無かったが、女性が書き残したと思われる日記が見つかりそこには不思議な事が書かれていた。
そこに書かれていた内容とは・・・
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