短編

□8月のむこうがわ
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「ちとせ先生は、わたしくらいの頃何になりたかった?」
そう彼女に聞かれたのは、6月も半ばをすぎた雨の日だった。
「どうしたの?いきなりそんなこと聞くなんて。」
いつものように嗅ぎなれてしまった消毒液の匂いが立ち込める、田舎町の基地の医務室で私は注射器にいつもの薬品を吸入しながら、いつも通りの業務をこなしていた。昼だというのに、ゆっくりと気だるさを誘う暗い雨天は、いまだ止む気配を見せることはない。ニュースによれば、この先一週間はずっと同じような天気が続くらしい。
いざ、この梅雨があければ夏は暑いだ日差しは強いわと自分でも文句が出ることはわかっていたけれど、それでもここしばらくお目にかかっていないお天道様の顔を早く見たかった。
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