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□まだ手が届くみたい
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最近、すごく楽しい。
どうしてって、彼が楽しそうだから。
あ、勘違いしないでね?
彼が楽しそうじゃないと、私も楽しくないってわけじゃないの。
ただ、彼があの試合で野球に対しての向き合い方が変わって、楽しみが増えたし、嬉しくなったって事。
「しの」
そんな事が影響してか、最近の彼は随分感情が表に出るようになったみたい。
ポーカーフェイス破れたり、なんてね。
ポーカーフェイスでもわかりやすいとこあったけど。
「…ふふ、徹士」
「何だよ」
前まで私が"しの"って呼ぼうが、"徹士"って呼ぼうが気にしてなかったくせに。
何でもない、って言った私に眉を寄せる彼。
一回り大きくなったなぁとか、まだ夏前なのにもう日焼けしてるなぁとか、改めて思ったりして。
「あ、もうすぐテストだけど大丈夫?」
「……どうやったって、赤点なんて取んねーよ」
話反らしてごめんね。
男の子って狡いんだもん。
あの一試合で、あの一球で、こんなに変わっちゃうなんて。
「………格好良くなっちゃって、さ‥」
「何か言った?」
口に出てしまっていた事に、はっとしたけどどうやら聞こえてなかったみたい。
また眉を寄せる彼の眉間をつついて笑えば、その手が捕まれ、おでこにわりと本気のでこぴんを頂戴した。
「、痛っ…!!!!!」
「馬ー鹿」
舌を出した彼は痛がる私を放ったらかしで、さっさと部活に向かった。
そんな背中に頑張れ、と小さく呟いた。
END.