V

□5章 指針


「――――貴様ァッ!!」

『……!』


地を蹴り、ブラックマジシャンが宙に舞う。
いつもは冷静な彼の激昂に、アンチもガールも目を丸くした。

空中で、光が炸裂する。

ブラックマジシャンが振り下ろした杖と、白い人影がかざした手。
その間で、魔力がぶつかり拮抗していた。
辺りには、ブラックマジシャンの怒りを具現化したような紫の稲妻がほとばしる。


「ブラックカオス様に何をした!」

『殺しタと言っテイる』

「戯れ言を…!」


――瞬間。
白い人影の顔が歪んだ。
相手の顔には、目も鼻も口もない。
しかし、確かに歪んだ。

正確に言えば、口角と思われる部分がわずかにあがり、
笑った、気がしたのだ。

ブラックマジシャンの一瞬の隙をつき、人影は彼の耳元に顔を寄せる。
そして――まるで恋人を誘惑するように、優しい声音で囁いた。


『……あナたに、嘘は、つかないワ……』

「……!?」

「お師匠様!!」


耳元の囁きをどこか蠱惑的にさえ感じてしまったが、
ガールの鋭い声で我に返る。

目の前の敵は、もう人型ではなくなっていた。
光り輝く球体となり、急激にその大きさと魔力を増していく。

拮抗していた力のバランスは途端に崩れ、
ブラックマジシャンは、瓦礫の山へ吹き飛ばされた。


「ぐ……」

「わわ、わ…!大変…!」

「チッ……!」


瓦礫で何度も転びそうになりながらも、ガールは必死にブラックマジシャンに駆け寄る。
アンチが、ふたりを守るように白い光の間へ躍り出た。


「お師匠様、怪我は…!?」

「……っ、平気だ…」


なんとか立ち上がり、ブラックマジシャンはアンチの横に並ぶ。

鋭い視線を宙へ向けると、光の声音と口調は元に戻っていた。
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