流れ星に、接吻

□流れ星は人攫い
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 秋と冬の間の夜のきりりと冷たく澄んだ空気に指先を赤く冷やされながら、垣根の影に隠れ続けた。きらきらと星が瞬く夜空を仰いで、ただただ自分の口から吐かれる白い息を見つめた。白い息はいつしか見えなくなって、胃の底までひやり。彼らを盗み見ることもできないまま途方に暮れていた。
「あ」

 小さい声が口からぽとり、と落ちた。流れ星が夜空を滑ったのだ。玄関の前の雪たちの存在を思い出して、慌てて口を塞いだ。それはもう手遅れだって分かっていたけど、きっと聞こえていないことを信じて空からは目を離さなかった。もう一度、流れないだろうか。

「それじゃあね、雪くん」

 甘ったるい鼻にかかった声と共に足音がした。ああ、やばい。不自然にならないようにと言い聞かせていたが、寒さも手伝ってわたしはかちこちだった。できるだけ平静を装いながら歩いてきた彼女の脇をすり抜ける。彼女は甘い香りを漂わせながら絶対、わたしを見ていたけど、気付かないふりをした。雪がこっちを見ながら笑っている。

「ふつう!」

 雪に何か言われる前に急いで言葉を発した。彼女はもう見えない。

「こんなとこでそんなことしないし、あんたが女の子を送っていくべきじゃない」

 早口に言い切る。雪が何か言う前に。そして、顔を見ないように。言い終わるとすぐに家の中へと足を踏み出した。

「悔しかったら、やってみろって」

 ちょうど雪の横を通り過ぎる時、耳元で呟かれた。思わず足を止めてすぐそばの雪の顔を見つめた。名前の通り白い肌にすっとした鼻筋。色素の薄い雪は瞳と髪だけでなく長い睫毛まで茶色い。確かに綺麗な顔である。否、違う。憎たらしい、憎たらしい顔である。
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