流れ星に、接吻

□流れ星は人攫い
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* * *

 空には濡れたように星が光っていた。深い藍色に包まれてずぶずぶと溶けてしまいそう。風は柔らかで、撫でるようにセーラー服のスカートの裾を揺らす。

 数メートル間隔ですまなそうに佇む街灯の下を自転車で駆け抜けた。はね虫がゆらゆらと漂うそこをそっと避け、真っ直ぐ進む。

 信号機が赤に変わった。車の通りは無い。赤い光を無視して、道を渡る。もう家はすぐそこだった。ペダルを漕ぐ力を緩め、最後の曲がり角を曲がる。すると家が見えた。カーテンの隙間からは柔らかな灯りが漏れている。玄関の前には人影。誰だろうか。

 思わず声をあげそうになった。人影は雪だった。わたしの双子の兄である。わたしとは似ても似つかないけれど。いや、一応、同じ親から生まれていている。だけど、雪は頭脳明晰、スポーツ万能、見た目モデル級(らしい)なのだ。その雪が誰だか知らない女の子とキスをしていたのだ。玄関の前で。いくら完璧くんでも非常識である。

 そうっと自転車を停め、音をたてないようにして垣根の影に隠れた。いや、しかし雪とは目が合っていた。ばっちりと。

 にやり。そんな風に笑われた。柔らかそうな茶色い髪は女の子の手でくしゃくしゃにされていたけれど、同じく茶色い瞳は閉じられていなかった。奴はわたしが高校二年の今になっても年齢イコール彼氏いない歴だって知っている。ぼくは違う、って楽しそうに言っているような笑みだった。ムカツク。だからってそこどいてとか言いながら家に入る勇気は持ち合わせていない。情けないけど。
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