-adult love story-
□秘書*沢木大造
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「お久しぶりです…」
「…呼び出してすまなかった。」
「いいえ…」
「じゃあ、行こうか。」
「はい…」
春も近づいた三月のある日。
私は、以前勤めていたATKエージェンシーの秘書時代に秘書をしていた副社長の沢木大造さんの車に乗っていた。
この一週間前に、突然沢木さんから電話が来た。
たわいない会話をしたあと、『来週の今日、会って欲しい』と。
私は戸惑ったけど、頷いていた。
なんで…頷いたんだろう…
淋しさ
ストレス発散
この時まだ、よくわからなかった…
私たちは過去に、重役と秘書の関係を超え、付き合ったけど、いろいろとあり、別れたのだ。
別れたあとも沢木さんの秘書を一年ほど勤め、異動で副社長付きの秘書から専務付きの秘書になったあと、同じATKの人と付き合い結婚し、ATKを辞めたのだった…
車は首都高を降り、静かに走っていた。
「あの、沢木さん…」
「なんだ?」
「今日はどうして…」
一番の疑問を、沢木さんにぶつける。
「一日遅れだが、昨日キミの誕生日だろ?」
「え……」
「ジュゴンを病院に連れて行ったとき、誕生日がジュゴンと同じだと言っただろ?」
「…あ……覚えてくれてたなんて……うれしいです……」
その言葉は、ごく自然に私の口から出てきた。
確かに昨日は、私の誕生日だった。
だけど夫はいつものように仕事が遅く、私の誕生日も忘れていたようだった。
それは仕方ないことだけど、せめて言葉でもあれば、違ったかも知れなくて…
伴侶である夫が忘れていて、沢木さんが覚えてくれていた。
私は、本当にうれしかった。
「いや、その……なんかずっと忘れられなかったというか……」
「え……」
「あ、いや、なんでもない…」
そう言った沢木さんの頬が、心なしか赤い気がしたのは多分。
見間違いじゃない。
「あとできちんと説明するから、待っててくれ。」
沢木さんはそう言うと、車を走らせ続けた。
それから20分ほどして、車は、私たちの思い出の場所、リッツカールトンに到着した。
リッツカールトンは、私たちが初めて結ばれた場所。
でも、なぜ今さら…?
そんな疑問が、頭の中をぐるぐる回っている。
そうこうしているうちに、沢木さんはフロントでチェックインを済ませていて、エレベーターへと足を向け、乗った。
エレベーターと言う密室で二人きり。
エレベーターの中でキスされたことがつい昨日のことのように思い出された。
「誕生日プレゼント…何がいいかわからなかったから…」
「え…」
沢木さんが、ふいに口を開く。
「さすがに結婚しているキミに形あるものは送れないから…」
そして、私を見た。
「…だから今日はキミのしたいようにすればいい…」
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