木蓮の涙

□第二話
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 ――自分が一体、誰なのか解らない。それは、苦痛なことなのかしら?

 自分の名はおろか、親や兄弟、家など、自分に関する確たることをなくして、真っ白な自分になる。不安がなかったわけじゃないの。それでも、苦しいだけの『自分』から逃れて、楽になれた。わたしを迎えて下さった方々はみな優しくて、わたしは安らかさに浸っていられた。



 でもそれは、逃げていただけだったのよ。向き合わなければいけない『本当の自分自身』から。

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