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□[華街道物語り 前編]
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遊女は恋に落ちてはいけない惚れるという行為は誤法度だ

姐女郎や花魁には間夫というものがいた
間夫というのは花魁などが惚れた男の事

だけど僕は男だから男なんかに抱かれたとしても恋には落ちない


そう、思っていたのに


目の前にいる男は僕が想像していた穢らわしく獰猛な男ではなく
綺麗で優しそうで


『お新…だから新ちゃんか、おいで?』


手を引かれていつの間にか抱き寄せられてあまりにも急だったから

口をぱくぱくさせて頬を真っ赤に染めてしまったら

そのお方はぷっと吹き出して笑って


『多分女将に名前聞いてると思うけど俺の名前は坂田銀時、銀さんって呼んでな』


優しく微笑んで僕の林檎のように染めてしまった頬へと

キスを落とした




恋に落ちるということは罪に等しいこの鳥籠のような場所で

初めて抱かれた相手にこのような淡い気持ちなど持ってはいけない

いくら優しくされようがいくら優しく抱かれようが
僕がこの方へ恋に落ちてはならぬのに



心の中に華を咲かせてしまった





夜八ツ、遊女達がようやく就寝につくこの時刻に僕と僕の初めての相手の銀さんは
もう繋がってはいないけれど布団の上で指を絡めて戯れ遭うようにしてキスをして

僕の躰を心配してくれたり優しく抱締めてくれたり

優しくて優しくて


『そんなに優しくされたら…恋してしまいますよ?』


冗談めいて言ってみた。冗談ではないけど本当は声震えてたけど
悪戯っぽくそう尋ねると


『新ちゃんに恋されたら俺、嬉しいよ』


そんな事言うから、そんな優しく微笑んで言うから ほら僕は

嬉しくて恋をするという罪を

犯してしまう



水揚時から貴方に恋に落ちて、罪を犯して

これから色んな男に抱かれる運命だというのに
貴方にしか触れて欲しくない貴方にしか抱かれたくない なんて
この世界でそんな事思っちゃいけないのに

思ってしまって


『また来るよ、新八』


見送りをして、どんどん遠ざかってゆく銀の髪をした彼
事情終りに本名を聞かれてつい教えてしまったら銀さんは僕を本当の名前で呼んでくれた

志村新八…これが僕の本当の名前
本名を教えてはいけないよ。と女将にかたく言われていたのに

彼に、彼だから教えしまった

僕の事をもっと知ってほしくてもっと貴方との距離縮めたくて


『…愛しています』



貴方に愛されたくて




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