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□[上弦の月]
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the moon in its
first quarter.







変な感じがするこれが恋愛感情というものなのか分からないけど
夢の中で貴方と触れ合って唇と唇が触れ合って

男どうし同性どうしなのに気持ち悪いって思って起きて
足音立てずに走って洗面所まで行って
蛇口捻って大量に流れる水の中へ吐こうと喘いでゴホゴホと咳込んでも

出てくるのは胃液ぐらいで

夜食べた物ひとつも出てこなくて唾液で濡れた口端を手の甲で拭った

気持ち悪い気持ち悪い男同士で手なんか繋いで男同士でキスなんかして
嗚呼それ以上なんて、考えられないのに


夢の中の僕はまるでそれを望んでいるように気持ち悪いくらい笑ってた

寝室に帰ると銀さんが居て相変わらず鼾かいて腹出して寝てて

その隣りに敷かれた布団の中へとまた潜り込み隙間があいた所から銀さんを見る

気持ち悪い、男となんか、やわらかな女の子が好きお通ちゃんが好き

大好きなお通ちゃんが夢の中に出てきたら良いのに
僕の夢の中へと不法侵入してくるのは


いつもアンタなんだよ



「なんでアンタなんですか…」


僕の心の中にずかずか土足で入ってきて足跡残していって
その足跡をたどって追いかけたくなる

銀さんは男だ、なんで銀さんが僕の夢の中に入り込んで来て
恋人みたいに僕と手をついで唇と唇が重なって ましてやそれ以上も

夢の中では起こっていて


恋愛感情なんて分からない。お通ちゃんは好きだけどきっとそれは憧れで
夢の中にはその憧れで好きなお通ちゃんじゃなく銀さんが出てきて

僕が好きなのは、恋愛感情を抱いてるのは銀さんなのかなぁって思うようになった








走って走って洗面所へ駆け込んで気持ち悪いと思って吐こうとしても
綺麗に吐けないのは…


洗面所に取り付けられた鏡をゆっくりと見上げ自分の姿を見てみる

顔は真っ青どころか頬はほんのり赤くなっていて、胸はきゅうっと締付けられる感覚がするけど
そんな嫌な感じじゃない


「…気持ち悪い」


まるで恋する乙女みたいな顔になってる僕が気持ち悪い
銀さんに淡い恋心抱いて考えるのはいつも銀さんの事で


こんな僕しらない

どうせ男と男なんか結ばれないのに夢の中で幸せそうにしてる自分が情けなくて…







布団の中手を伸ばして銀さんの手をぎゅっと握ってみた。案の定手は大きくて
僕の手は小さくて夢でみたように恋人みたいな繋ぎ方をして

満足して頬がつい緩んでしまいそうになる僕がなんだか


馬鹿、みたい


女の子みたいにやわらかくなくてゴツゴツして角張ってる手握って

自分が異常な事を異常な感情を持っているなんて初めから分ってるけど

同性だからとか男だからとか何も間からは産まれないからだとかで
好きという気持ち誤魔化して気持ち悪いって思って全て吐き出せばこの卑しい感情も

水と共に流れていくんじゃないかなって思ったけどそうはいかなかった


好きなものは好き。貴方の銀の癖のある髪が好き、やる気のない目が好き、貴方のゴツゴツした手が好き

ふっきれたらもう吐き気なんてなくなった
ただ好きだから、それだけだから

でも、貴方は違うかも僕の事など恋愛感情などでは見てはくれないだろう


同性どうしなんて気持ち悪いと思うでしょ?

だから僕はこの気持ちを上弦の月のように半分隠して綺麗な感情だけを表に出し貴方を好きという感情を殺し

貴方と接するから




せめて上弦の月が輝く夜だけは

この切ない気持ちを



開放させて下さい










the moon in its
first quarter.
─上弦の月─







おわり


新八は万事屋にお泊まり中です!

最近暗い話ばかり思いつくのは何故だろう…


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