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□[華街道物語り 前編]
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この物語は遊郭がメインの話です



遊郭の話が苦手な方

でなければ、ご観覧ください











心に泳ぐ金魚は恋し想いを募らせて

真っ赤に染まり実らぬ想いを知りながら

それでも傍にいたいと


願ったの……









奇麗な着物を何段も重ね着飾り、お粉で奇麗に顔を雪のように染めて唇に紅をひいて

おなごのように伸ばした髪を結い上げキラキラ光るかんざしをあしらって


「あんっ、あん…あっひゃあッッ」


好きでもない同じ同性のおのこに毎夜抱かれて切なく声を漏らし
相手が満足するまでこの身を削る


こんな夜はいつもいつも途切れる事なく続く


本当に愛した貴方に遭えぬのは気が狂う、切なく悲しくて
馴染みの客が帰った後は身を清めるのも忘れて月夜を見上げ

一人寂しく


「いつ、来てくれるのですか……」


泣いた



両親は僕が幼い時に死んだ。身寄りがなくて吉原のある有名な所へと姉上と共に引き取られ

男の僕は男色家の相手をさせる為にとおなごと一緒の稽古をつけさせられた

禿(カムロ)から直に引込になりお琴や茶道華道、三味線といろんな知識を頭の中に植付けられ

新造になると早々といつの間にか水揚する事に決まった

初めて男に抱かれる、同じモノがついている同性を抱いて何が楽しいのか分らない


頭のイカれた野郎なんかに


でも生きていくには躰を売る事と作法しか知らなかった
姐女郎の御付きをしている時嫌というほどの甘い嬌声と男の胴間声を聞いてきた

だからこの世界に僕は色濃く既に染まってしまっていた

嗚呼、これで僕は僕でなくなってしまう
姐女郎みたいに艶めいた声を上げて汚らしい男の手により



色の闇へと

墜とされてゆく──




『お新や、くれぐれも楚々のないようにな』


お前は器量が良いし顔もおなごに負けぬ程美しい
きっとお前は花魁街道をゆく者におなりになるよ

だから抱かれてお出で甘く艶めいて男を喰ろうておいで


お新、お前の水揚のお相手は──…






襖を静かに開け、頭を深く下げてゆっくり顔を上げてゆくと

穢がらわしく獰猛で汚らしい男の姿は見当たらず


『君がお新?よろしくな』


奇麗な銀の髪を揺らしそれと同調の銀の双眸をこちらに向け
優しそうな男が僕に手を差し延べて微笑んで来た



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