流れる季節の真ん中で、ふと日の長さを感じます。 「あ、」 『あ、』 すとん、と春らしいパステルカラーの手紙を昔と変わらぬ赤い彼女の郵便受けに入れる。暖かな手紙達とは違って、ここはまだ日は上がり切らず、ほんの少し肌寒い。とそんなことを考えていると、普通の少女だったら本来起きているはずのない時間なのだが、何故か彼女は玄関から出てきたのだ。 『お、おはよう』 「…おはようございます」 『郵便屋さんって早いのねー、お日様が全然見えない』 「ははっ、アナタも人の事言えないでしょう」 『ふふ、そうだね』 ふわふわとまだ見えない太陽みたいに笑う彼女につられて僕も笑った。忙しく過ぎる日々の中でも、彼女の笑顔は変わらないのだろうと思った。ひとしきり笑い終わると彼女は僕のことをじっと見つめてきた。僕らの間を3月の風が吹き抜ける。 『…うん、似合ってる』 「…はい」 『その服、すごく、似合ってる』 「…ありがとうございます」 『あー、もー、かっこよすぎだよ』 「…っ、」 顔を手で覆ってふふと笑う彼女。褒められて悪い気は、しない。むしろ、あれだ、う、嬉しい。ほろりと、照れ臭い感情がこぼれた。それはさっきの風に乗ってひゅるひゅると舞って、桜の蕾の下へ行った。 ちょっと前までは、ずっと一緒にいて、普通に恋をして、普通に愛し合って。だけど僕が夢を追いたいと、そう言ってしまったから。やさしい彼女は震える手を握り、僕を見送ったんだ。夕日が落ちるのを惜しむみたいに、やさしく切なく。 「…あなたは、相変わらずですね」 『それは褒め言葉?』 「ふふ、もちろん」 『そっか、』 少しずつ集まる、朝日の粒が冷たい朝を温める。僕の頬に、額に、くちびるに。そして彼女の頬に、額に、くちびるに。何とも形容し難い幻想的な、儚い光景。頭からゆびさきまでゆっくりと包み込まれてく。 『ふわぁ…』 「…大丈夫ですか?」 『…へへ大丈夫』 「全く、慣れないことするからですよ」 大きなあくびをして、照れ臭そうに笑う彼女に僕の上着をかける。さっきから少し震えてた彼女は一瞬びっくりしたような顔をしてまた照れ臭そうに笑った。 新しい世界に立った時、気づいたことはひとりじゃないってこと。あの時あなたが、笑って言ってくれたから。あなたは、ひとりじゃないよ。わたしはずっとあなたを待ち続けるから、ずっとあなたの味方だからね。 「…ねぇ」 瞳を閉じればあなたが 瞼の、裏にいることで どれ程強くなれたでしょう 「…ありがとう」 あなたにとってわたしも そうで、ありたい 「それから…もう一度、僕の隣で」 誰かの思いを乗せた風が、僕の言葉も乗せていった。 3月9日 この先も隣で、そっと微笑んで END. |