文
□世界もきみも、
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無知は罪じゃないなんて言うけれど、それは違う。知ろうとしないことが罪なんだと、そう思っていた。
「ねぇ、」
知らないのよ、わたし。
たとえば、きみの好きな食べ物だとか、好きなマンガだとかアーティストだとか。わたしが長年、下らないことだと蔑んでいたことをまったく知らないの。そして今更になって知りたいと思えてきたの。
「わたしってバカよねぇ…」
あなたは知っていたかしら。わたしの好きな食べ物だとか、マンガとかアーティストとか。…知ってるでしょうね、いつもわたしが話していたもの。きみの気を引きたくて、誰よりきみの傍にいたくて、うっとうしいほど話してたわね。そしてわたしが何もかも教えれば、きみもわたしに教えてくれるなんて、そんな馬鹿げたことも思いながら。
「……」
ねぇ、
「知らないのよ……」
わたしは、
何も知らない。
「何も知らないの……」
何度も教えを乞うた。そのたびにはぐらかされた。わたしは何でも知ろうとした。そのたびに曖昧に笑われた。故に何も知らない。
これは罪でしょうか。
「…」
知りたかったわ、きみがわたしのことをどう思ってるか。(今じゃもう、手遅れ)
きみが何を求めていたか。(ねぇ、それはわたしがあげられるものだった?)
きみが、
きみを、
もっと、
「 」
世界もきみも何も教えてはくれなかった
(わたしは、)
(ただ愛したかっただけなの)
END.