小品・短編(not夢)
□TheThief〜赤い盗賊
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TheThief
〜赤い盗賊〜
アタシの彼氏は
いつも「大好き」「かわいい」って
アタシに連発。
しかも、隙あらば、ピッタリ身体くっつけてくる。
嬉しいけど、毎日50回言ってたら、それってば癖であって気持ちじゃないのでは、と、勝手に疑念を持つアタシ。
あ、ほら、
彼氏がやってきた。
750ccのバイク。
メットからこぼれる赤い髪。
ボーダーのシャツがひらめく。
アタシをみつけて笑うの、緑色の瞳。
にこにこにこにこ。
道端でキスしようとするから、思わずその肩を突き放す。
その耳に光るピアスも、ぐぃと上にあげられたゴーグルも、丸ごとアナタにめちゃ惚れしてるアタシだけど。
あんまり、好き好きって言われるのも、不安になるの。
その単車の後ろに座るのってホントにアタシだけなの?
可愛いね、って髪を触る相手もホントにアタシだけなの?
ファーストフードで100円のコーラと100円のバーガーを買って、二人公園で、少し早い夜ごはん。
アタシはそこそこの勇気をもって、この24時間アタシを支配してきた疑問を口にする。
「マット、なんで昨日バイト帰り迎えに来てくれなかったの?」
「ええ?何、待ってたりしたの?」
なんだか大袈裟に驚いているように見える…。
「え、ベツにそーいうワケじゃないけど。」
「だから、…ちょっと仕事があって。」
その言い訳に、アタシはハァ〜とため息をつく。
「嘘つかないでよ。昨日マット、家にいたでしょ。アタシ知ってるんだから。」
「家に…いた。あれぇ?なんで知ってんの?」
「なんでじゃないっ!友達が電話したときマット家電(いえでん)に出たって言ってたもん!」
アタシは半泣きになる。
なんで、嘘つくの?って悲しくなる。
いつもの「好き」も「かわいい」も全部ウソ、
つきあって来た期間の楽しい幸せな思い出も全部ウソになっちゃう。
「お、オレ、嘘ついてないし。家から出ないとも言ってないぜっ」
「やめてよねっ。一体誰と一緒にいたのよぉ…。」
「わっ、泣くなっ。頼む、泣かないでくれぇ…。」
そんなカオしたってダメだよ、マット。もう遅いよ。アタシ、悲しくなっちゃったよ。
「ウソツキ。」
「嘘ついてないしっ。」
「仕事じゃないじゃないっ!」
「ほ、宝石を取り戻す仕事を頼まれて…。」
宝石、なんていう単語が出てきてアタシの怒りはむしろ大きくなる。
「なに言ってんの?宝石ってなによ。誰に頼まれたって?」
「ラズルドズルっていう人。」
「誰それ?」
「俺が今いる街の領主。」
「街ってどこよ。」
「カンタレッラ。」
「どこにあるんのよぉおお、そんな街っ」
「『シャイニング・イン・ダークネス』だよっ。俺、盗賊(シーフ)の仕事してるの。」
「ゲーム??…マットのばかぁっ!!」
あああ、
もしかしたら、
って頭を掠めなかったわけじゃないけど
アタシってゲームより優先度低いの?
ゲームに負けたなんて。
考えたくもないよ、
マットのバカ…。
「ごめん、ごめん。」
でもさ、と、マットは言い訳に必死。
「ずぅっっっと発売待ってたゲームなんだよ。名作の『シャイニング〜』シリーズの最高峰だぜ!もう俺三日三晩寝ずにコンプリートしたんだ!」
なんで、そんなご満悦な笑顔。
憎たらしいっ!
無理やり抱きついてくるマット。
「ねぇ、キスさせて〜。」
「やだ。」
「3日ぶりのキスなのに…。」
「マットのせいでしょーっ!!」
ポカスカポカスカ。
「ゲームなんかにヤキモチ妬くなよぉ。」
そんなこと言ったって。
不安になったのは本当だもん。
放っておかれたのは本当だもん。
「わかった、じゃあこうしよう!」
ものすごいナイスアイディアとマットは嬉しそう。
「なに?」
「一緒にゲームしよう!攻略本お前に渡すから。」
「横でガイドしろっての?マットのばかぁっ!」
もう我慢できずにアタシは走り出す。
これでも陸上部だったんだよ。
走れば速いんだよ、アタシ。
マットなんて追いつかないよ。
そうして、離れ離れになっちゃうんだよ、アタシたち。
マットのせいだ、マットのバカ。
そしたら、後ろからエンジン音。
バカじゃないの?
バイクで追いかけてくるなんて。
おかしいよ。
でも、アタシの手首は簡単にマットにつかまれて、
身体はいつの間にかバイクの上にあって。
バイクはズズズ、と止まる。
ノーヘルは捕まるよ。
でも、キスが上手過ぎて、そんなこと忘れてしまいそう。
「ごめん。俺はずっとお前と一緒の気分だったんだ。」
唇が離れると、ようやくマットは謝罪の言葉を口にした。
「どういうこと?」
「ヒロインの名前お前にしてるから。」
にこっと笑顔。
なんでそんなイイ笑顔するの?
反則。
参っちゃうよ、マット。
「だから一緒に旅しようよ〜。」
ホント、参っちゃう。。。
アタシの彼氏は
いつも「大好き」「かわいい」って
アタシに連発。
だけど、ゲームが大好き。本当は女の子はみんな好き。
今のままじゃ全然足りないよ、マット。
もっと、愛してるって言って。
もっと抱きしめて、キスをして。
アタシがほかのこと考えられないくらい、アタシを占有して。
アタシの目が、赤い髪とボーダーの服とゴーグル以外、見えなくなるくらいに。
Ende.
2008/5/18 ZinSinWind
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☆プチあとがき
現在イラスト企画BBSのメロマトスレにモロ影響を受けまして、マト夢となりました(^^;)