小品・短編(not夢)
□Departure Gate
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空港のディパーチャーズゲート。
長い回廊を行き交う沢山の様々な国の人々。
私は目深に帽子を被って一人荷物番をしながら、ぼーっとしていた。
そのとき、ふと、気がついてしまった…。
人波の向こうのイスの上、に、しゃがみこんでいる青年を。
心臓が止まるかと思った。
白いロングスリーブのTシャツ。
シャツの陰影が妙に鮮やか。
着古したかのようなジーンズ。
なのに、彼に漂うどこか品のある雰囲気。
ジーンズの下の、その足は素足で。
踵を踏み潰された靴たちは、イスの下に転がっている。
現実でこれは、浮く、なぁ…。
なんて、思いながらも、私は彼の顔を見る勇気が出ずに、帽子の陰からそっと、彼の、足のわりに長い指をじっと見つめた。
足の指なのにキレイ…。
これって…
どう見たって…
う〜ん。。。
こすぷれ?
それとも…
いや、まさか。
だって“彼”だったら、絶対プライベートジェットとか、特別便とか、いずれにせよ、こんな一般人が出入りする場所のゲートにいるはずがない…。
私はお腹の底深くにたまったような息を吐き出して、帽子の鍔と一緒に少し視線を上げる。
ジーンズの膝上に置かれた手。
指か細くて、男性とは思えないような繊細さがありながら骨っぽさも感じる・・・・・長い指。
うわぁぁぁ
思わず口の中の唾を飲み込む。
これってやっぱり…
もう少し視界を広げれば、白いシャツの襟元からこぼれる鎖骨の色。それに細いアゴ、ぎょろっとした黒曜石のような瞳に、いかにも無造作な黒髪。
その目の下の大きなクマを見たとき、彼と目が合ってしまった。
どっきん。
ウソ、だ。
ありえないよ…。
2、3度瞬きをする。
一瞬彼が、ニタリ、と笑ったように思えた。
人の波がやってくると、彼の姿はその影に遮られて見えなくなる。
そして、“彼”は消えた。
でも、見ちゃった。
黒いスーツの三つ揃いに帽子を被った老人が、その前を通ったことを。
今のは…。
ますます、疑念が頭をもたげる。
その一方で、これが現実であるように願っている私がいる。
一瞬の出来事。
夢でも見たのかもしれない。
あぁ、思っていたよりも、実物の方がずっと素敵だった…。
イスの上には、もう誰もいない…。
Ende.
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☆プチあとがき
白昼夢再び、それともただの妄想かw
2007/11/23 ZinSinWind