小品・短編(not夢)

□真夏の白昼夢
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暑い!

暑いと言ったら、もっと暑くなるから言わないでおこう…。

私は夏の太陽にこれでもかというほど照射されながら、沢山の買い物袋を両手にさげてアスファルトの歩道を歩いていた。

照り返しがすごい…。

重い…。

生きて家にたどり着けるんだろうか…。

たどり着けずに死んだら、うちの旦那は泣いてくれるだろうか。

朝、物凄い剣幕のケンカ…というか一方的な怒られ方をしたから、泣かないかもなぁ。

いや、案外朝の出来事を後悔して泣いてくれるかも。

せめてあの高いビルの影に入るまでは頑張って歩こう。

そうそう目標はまずは手の届くところから。

あそこまでたどり着ければ家ももう少し。

一人訳の分からないことを頭のなかで反芻する。

とはいってもまだ500mはあるんじゃない?

重いっ。

暑いっ。

暑いといったら、もっと暑く…、

ええぃ、心頭滅却!!

そのとき、自分の見える世界がくらりと歪んだ。

立ちくらみならぬ、歩きくらみ?

ひぃ、もう勘弁して!

そう思ったとき、右手が突然軽くなった。

目の前に一人の青年が立っていた。

「重そうです。」

逆光で顔はよく見えない。

「よかったら、そっちもお持ちしますよ。」

左手も軽くなった。

両方の手が軽くなったら、なぜか身体がふら付いた。

彼がふさがった両手の片方の腕で支えてくれた。

「貴女までは持てませんよ?」

笑った口が見えた。

日本もまだ捨てたもんじゃないのね。こんな青年がいるなんて。

「ありがとう。」

私はなぜか不信感も抱かずその青年に荷物を渡してしまっていた。

それでようやく一息ついて、彼をはっきり見ることができた。

…L?

白いシャツにジーンズ。それに痩躯、長い指。無造作な黒髪。

「歩けます?」

「はい。」

良く見れば、Lじゃない。

そりゃそうよ。

Lは漫画の中の世界のヒト。

実物で想像するなら、松ケンのL。

けれど、彼は本当に漫画から出てきたかのようなLっぽさ。

このヒトを映画に起用したほうがよかったのでは、と松ケンファンの癖にそんなことまで考える。



太陽の照り付ける昼日中、私は、若い青年と二人で歩いてる。

不思議。

なんだか落ち着く。

でも旦那に見られたら、なんて言い訳すればいいんだろ。

あ、言い訳なんていらないや。

だって、荷物を持ってくれているだけだもの。

それなのに、どうして、この心臓はこんなにドキドキするんだろう。

私はチラリ、と横の青年を見た。

やっぱりLっぽい。

そりゃ漫画のような真っ黒な隈はないけれど、彫りの深い顔立ちが目に影をつくる。それが彼をますますLっぽく見せる。

首筋や鎖骨まで思わず見てしまう。

こうして改めてみると、Lって実はとてもキレイなヒトなんだなぁ…。

いや、だからLじゃないってば。

「どうしました?」

「いえ、重くないかしら、と。」

「重いですけど、男ですから。このくらいの重さは全然問題ありません。」

うちの旦那もこんな風に切り返してくれればいいのに。

比較する私はひどい奥さんね。

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